強がらなくてもいい

【said 樹】


「慎、どうかした?」
「…え?」
「昨日とテンション違うけど。なんかあった?」


外で煙草を吸ってる横で、慎がポケーっと空を見上げているから声をかけた。振り返った慎は女みたいな真っ赤な目で、え、泣いてる!?思わず後退りする俺に儚く微笑むんだ。なんだ、まだ笑えるじゃねぇか、たく。


「どうした、マイコか?」
「うん。フラれた…。」


マジで!?思わずコテージの中にいるマイコに視線を送る。…隣には当たり前のように壱馬がいて…。てっきり慎に譲るもんかと思ってたけど…。まぁ世の中そんなうまくはいかねぇよな。俺だって奪えるもんなら北人からゆきみのこと奪ってやりてぇわ。


「吸う?」


煙草を取り出して慎に差し出すと一瞬固まってから「おう。」一つ手に取った。ジッポで火をつけて咥える慎の口元に差し出すと、綺麗に煙を吸い込んだ。


「まず…。樹毎日こんなもん食ってんの?」
「うるせぇよ。気休めだよ、これ。」
「気休め?口元寂しいって?」
「…そんなとこ。」
「変態。」
「そっちこそ。」


ぶはっ!て二人で笑う。


「俺も慎と一緒。昨日ゆきみにフラれた。でも別にだからってゆきみを好きな気持ちは変わんねぇかな…。ずっとあいつのこと見てきたのに今更変えられねぇよ。慎も強がる必要ないんじゃねぇ?」
「え、樹もダメだったんだ?」
「まぁ分かりきってたけど。俺の場合。」
「結構いけると思ってたんだけど、やっぱダメだった。壱馬には敵わないや…。」
「いると思うよ、慎だけが好きでたまんねぇって女。」
「…樹も、だろ?」
「かな…。」


自分だけじゃなかったことにちょっとだけホッとしている自分がいることは誰にも知られたくない。けど俺が落ち込んだらゆきみも北人も気使うだろうーって。せっかくうまくいったこと、俺の機嫌で隠させたくもねぇし。煙を肺まで吸い込んで口から輪っかにして空に向かって吐き出す。…これ、ゆきみが好きでよくやらされてた奴じゃねぇか。心臓痛てぇし、クソ。


「慎、陸も誘ってさ、男3人でどっか行こうぜ!今日は。今日だけは強がらなくてもいいよな?俺ら。」
「うん!」


慎の笑顔に俺も微笑み返した。



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