大人への一歩

【said 慎】


「…なに、二人揃って…。」


ドクンと心臓がうごめく。俺の目の前にはマイコと壱馬。真剣な顔で「話がある。」そう言ってソファーに座る。嫌な予感しかしない。二人の顔を見れば分かってしまう。俺だってマイコであり壱馬のこと、ちゃんと見てるから…。


「慎、俺お前に嘘ついててん。ほんまにごめん。」


こんな俺如きに深々と頭を下げる壱馬は、本当にかっこいいって思っちゃう。悔しいぐらいに。隣のマイコはなんともいえない表情で、でも目を逸らすことなく真っ直ぐに俺を見ているから、その心はもう決まってるんだって思い知った。あんな風に強い視線を飛ばすマイコも俺は大好きなんだって、改めて思うわけで。


「私も、まこっちゃんのこと、曖昧にしてて、ごめんなさい。」


ほらね、マイコもちゃんとした人だって。悔しいけど二人、お似合いじゃんか…。


「うん。分かった。もういいよ、二人が言おうとしていること俺は分かったから。俺も二人のこと大好きだから大丈夫だから…。」


だからお願い、もう言わないで。俺のせいで、俺の為にそんな切ない顔、しないでほしい。たまたま一緒だっただけだよ、俺と壱馬の好きな人が。


「でも、」
「うん、いいから。言ってそっちはスッキリするかもしれないけど、俺まだマイコのこと好きだから…。時間かかるからさ。でもちゃんと前に進むから、二人は俺のことちゃんと見ててよね?」


ずるいかもしれない。でも聞きたくないんだ「俺達付き合ってる。ごめん…。」なんて惨めな言葉は。困ったように目を見合わせるマイコと壱馬にいつかちゃんと言えるようになりたい…「おめでとう。」と。


「分かった。」
「私も、分かった。」
「ありがとう。いつかちゃんと言うから、それまで待っててよ、お祝いの言葉。」


俺の言葉に、涙を浮かべるマイコが小さく頭を下げた。俺達生きとし生けるものは、嫌なことを乗り越えてこそ、次に進めるんだって。大人になる為に俺の選んだこの道は間違ってないよね。



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