不満

【said 朝海】


ハッと夜中に目が覚めた。絶対にそこにいると思っていたケンちゃんの姿はなくて、代わりにあたしのオデコに手を重ねたままウトウトしているのは陸。まさかの陸に吃驚した。え、なんで陸がいるの?ケンちゃんが呼ばなきゃ陸なんて絶対にいるはずないよね?なんでケンちゃんじゃないのよぉ。ケンちゃんがここにいなきゃダメなのに…。目を閉じて寝息を立てている陸を見ても気持ちが揺らぐなんてことがなかった。本来なら目覚めて最初に陸がいたらあたし、嬉しいはずだよね?なのになんでこんなにモヤモヤするの?…なにもかも全部ケンちゃんのせいだ。あの見知らぬ女Aとケンちゃんがあたしの目の前でよりによってイチャイチャするから…


「ちきしょう…。」


漏れた声にピクっと陸の耳が動いた。薄ら目を開けた陸はあたしを見て心配そうに手を伸ばした。オデコに触れる陸の大きな手。


「気分は?」
「…よくない。」
「まだ全然熱高いな…。マイコが作ってくれた玉子粥があるんだけど、ちょっとでも食べれない?薬飲まなきゃ熱さがんないから。」
「…食べたくないよ。」
「けど治らないよ?苦しいでしょ?ね?」
「…心配、してくれるんだ、あたしのこと…。」


嫌味で言ったわけじゃないけど、こうして陸とまともに話せるとも思ってなかったから。ほんのり眉毛を下げる陸は優しく微笑んだ。


「当たり前だろ。今は余計なこと考えないで、熱下げることだけ考えろよな。」


クシャって陸の手がまたあたしを撫でる。風邪ひいたら優しいんだね。もっと早く風邪ひいておけばよかった?


「ケンちゃんは?」
「リビングかな…。」
「一人?」
「ん〜どうだろ?」
「あたし、目が覚めたらケンちゃんがいてくれるって思ってたのに…。」


キョトンとした陸の顔。え?変なこと言った?


「陸?」


半笑いの陸があたしの顔を覗き込んでニーって大きく笑ったんだ。そのままふわりと陸の温もりに抱きしめられて…―――え、なに?


「なに、陸?」
「いや。ちょっと嬉しいことあって。」
「…あたし全然嬉しくない。」


ケンちゃんがここにいないってだけで、こんなにも悲しいなんて。ケンちゃんに聞きたいこといっぱいあるのに、あたしが聞いてもきっと笑って誤魔化すかもしれないけど、でも聞きたい――――…


ケンちゃんの好きな人って、誰?って。



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