お人よし

【said マイコ】


「ケンちゃんほどのお人よしっていないんじゃないかな…。」


真夜中に陸を朝海の部屋へって送り出した後、ケンちゃんと私はリビングで飲んでいた。ゆきみと北ちゃんは樹の部屋から戻ってもこないし、まこっちゃんと壱馬がどこにいるのかも分からない。


「マイコに言われたくないけど。」
「…ケンちゃん私、みんなが思うようないい子じゃないよ。朝海やゆきみのことはすごく大事。勿論今この旅行に来ているみんなも。でもそれ以外はさほど気にならないし、優しくもない。…私も素直になりたいのに、いつまでも意地張って誤魔化してるの。…女は愛された方が幸せだって昔から言うでしょ?だから…、」
「…だから?」


見つめるケンちゃんの瞳は真剣で。こういう話を真面目にできる相手がいるってことは幸せなことだよね。思い浮かべるまこっちゃんの告白。なんとなく、壱馬に対してまこっちゃんが焦っているのを感じた。私の気持ちがまこっちゃんに決めきれていないせいでまこっちゃんのことも傷付けてしまうことは分かってる。


「素直になるのが怖い。相手の態度がコロコロ変わってね…。自分だけが舞い上がっているのかもしれなくて。心の中では好きって気持ちがあるんだけど、それを口にしたら今の関係も崩れてしまうのかも…って思うと言えないし、―――俺は好きじゃないって言われたらきっと立ち直れない。だから私だけを見てくれている人の方にいってもいいのかな…って思う嫌な自分もいて。でもその人と一緒にいると、心が癒されるの。嫌なこと忘れられるし、穏やかでいられる…。だから、」


まこっちゃんの彼女になったら幸せだって心から思う。だけど、この壱馬への気持ちを消せない限りは、まこっちゃんにはいけない…。だけど壱馬の態度で、まこっちゃんに逃げたくなっちゃう。ケンちゃんの手がポンポンって私の髪を撫でる。どんな言葉もこうして受け止めてくれるケンちゃんに愛されてる朝海はきっと絶対に幸せになれる。私が保証する。私も、こうして受け止めてくれる人が欲しい…―――


「大丈夫だよ。マイコの思うように進めばいい。どっちを選んでも大丈夫。どっちもいい奴だし!」
「…誰って言ってませんけど?」
「言わなくても分かるって。」


そう言ってケンちゃんは缶ビールをカチっと私のカクテルにくっつけた。まぁバレるよね。こんだけしかいないんだし。でも自然とケンちゃんには知っててほしくて。朝海への気持ちを隠すことなく教えてくれたケンちゃんを、私は応援したいと思わずにはいられない。


「もう、勝てないや、ケンちゃんには。」
「ぐふふふふ。」
「あ、それより、朝海と樹と三人で何があったのよ?なんで高熱なんて…。」
「…地元ん時の女友達と偶然会って、話し込んじゃっただけなんだけど。急に樹と朝海がベタベタしはじめてねぇ…。」
「…え、妬いたの?朝海ってば。もしかして無意識でそれ妬いてたんじゃないの?」
「どうだろ。けど陸だからねぇ、朝海。俺は朝海の幸せを何より願ってるから。」
「やっぱお人よしだよ、ケンちゃん。」


私もまこっちゃんや壱馬の幸せを一番に願える人になりたい…。



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