ゴメンねのキス
【said 北人】
樹のベッドにかじりつくように寄り添っているゆきみを見ていると、ゆきみの好きな男は樹なんじゃないかって思えた。確かに俺なんかよりも男らしくて頼りになる樹が傍にいたら、俺が女なら迷うことなく好きになるだろうって。
「そんなに樹が好き?」
だから思わずそんな言葉を発していたんだ。半ば無意識なのか…。
「え、なに?」
怪訝な表情でこちらに振り返ったゆきみはジッと俺を見ている。
「樹が好きだから…―――樹とシたんでしょ?」
理由なんてどうであれ聞きたくもない、知りたくもない真実を自分から引き出すなんて、ただの馬鹿だよね、俺って。
「違うよ!」
だけどゆきみは震える声で、むしろ全力で否定したんだ。樹は同意だって言ってたし、無理やりそーいうことをする奴だとも思っていない。だったら…
「北ちゃん違う。わたし、北ちゃんが好き。ずっとずっと北ちゃんのことが大好きなの。」
そう言ったゆきみは、あんなに樹のベッドにベッタリだったのに、ふわりと俺の胸の中に飛び込んできた。なんて甘い香りがするんだろう、ゆきみは。このまま閉じ込めてしまいたくなる。初めて聞くゆきみの気持ちに身体が熱くなる。
「北ちゃんのこと好きだった先輩がわたしに嘘ついたの。北ちゃんと付き合ってる、だから付き纏うな、迷惑だって。わたし馬鹿だからそれ全部信じて、それで樹と…。馬鹿だって思われても仕方ない。でも悔しくて苦しくて。だけどどんどん男っぽくなっていく北ちゃんのことどんどん好きになっていくわたしがいて、どうしたらいいのか分からなくて。意識してうまく喋れなくて、」
ゆきみの言葉を遮るようにその唇に触れた。え?って顔で俺を見つめるゆきみにもう一度小さくキスをする。
「苦しめてたのは俺だね。…だからゴメンねのキス…。」
「…北ちゃん。」
俺を見つめるゆきみにもう一度顔を寄せると、自然と目を閉じるゆきみ。
「いっぱい、いっぱい謝らなきゃ。」
樹が起きるかもしれない、でも今、このキスを止められない―――――
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