自業自得

【said 壱馬】

北人の言葉に自分の耳を疑った。…嘘やろ…と。そんで思い出した、昨日川原で慎が俺に聞いた言葉を。好きちゃう奴とはキスせえへん?って…


「マイコのことやってんか…。」
「北ちゃん、見間違いじゃないの?」


ゆきみが北人の腕を掴んでユラユラ揺らす。


「ケンタの車の上開けて何度もしてたよ。俺が見てることも気付かないぐらいに。」
「…北人、もうええ。」
「あ、ごめん。ねぇ壱馬、このままでいいの?」


それ北人に言われたないわ。自分を棚に上げてよう言うわ、こいつ。けどあかん。最悪やん。



「キスしてもええなんて言ってへんわ、慎!!」


むっちゃ腹が立っておさまらんで、俺は竿を置くとそのまま川ん中に入った。頭に血が上る。なんともいえん魂の叫びのような苛立ちで頭から川ん中に突っ込んだ。全身に水を浴びてほんの少し冷静になった気ぃもすんねんけど…結局んとこ、慎を煽ったんも俺で、マイコに中途半端な態度とったんも俺やんか。自業自得ってこーいう時に使うんやな…。もっと早よう素直になればこんな惨めなことなかったん?慎に聞かれた時にかっこつけんと「あかんよ、マイコは俺のもんや。」そう言えばよかったん?後からどんだけ後悔しても過去は変えられへん。心配そうにこっちを見ているゆきみと北人。


「北人、ちょおこっち来い!」
「え、川に入るの?俺も?」
「ええからこっち来い!」


俺の大声にビクっと肩を震わせた後、しぶしぶこっちにやってきた。ご丁寧にスニーカーを脱いで中に入ってくる北人の肩をガシっと掴んだ。


「なんだよ、壱馬…。」
「お前、ゆきみんことどう思っとんねん!?」
「…好きだよ。」
「それ早よ言え。陸も樹もおんねんぞ、ゆきみんこと好きな奴。ええのん、陸や樹にゆきみ取られても?ゆきみ抱かれてもええのん!?」
「…分かってるよ。俺だってちゃんと言うから、だから信じてよ。」


北人に言われてまた少し冷静になった。自分がこんなにも焦ってまうなんて知らんかった。もうマイコのこと、これ以上慎に触らせたない。


「こんな想いは俺だけで十分や…。」


小さく呟いたら北人が儚く微笑んだ。


「樹とのこと聞いた俺も、今の壱馬と同じぐらいぶっ壊れそうだったよ。俺はゆきみのこと、陸にも樹にも絶対に渡さない…。」


そう言って北人はニッコリ微笑む。それからこう続けたんや。


「でも俺、マイコは壱馬のこと待ってるように見えるな。」


その一言が救いやった。しゃあない、北人の失言許したる。



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