無意識なヤキモチ

なんだこれ。一体全体なんなんだっつーの。目の前には知らない女とケンちゃん。つーかベタベタ触りすぎじゃない?

あの後可愛らしいカフェを見つけて途中下車。店内に入ったらケンちゃんが急に女に声かけられていて、そのまま隣に座った見知らぬ女A。


「すげー顔になってる。」


さっきの仕返しなのか、樹があたしの耳元でそう言ってクスクス笑ってやがる。


「みんな健太に会いたがってたよー。たまには帰ってきなさいよ?」


どうやら地元の女Aとみた。あたしの知らないケンちゃんを知っている女。あたしの知らないケンちゃんの過去を知っている女。ケンちゃんを「健太」って呼び捨てする女。なにこのイラつき。チラリと目が合ってドキッとする。


「この子が前に言ってた健太の好きな子?」
「ばか、そんなんじゃねえっ!」


ドクンと胸が脈打った。頭ん中真っ白になる。こんなに焦ってるケンちゃんは見たことない。それ以上に、ケンちゃん好きな子いるの?さっきのあたしの質問、笑って誤魔化したくせに、この女はそーいうの知ってるの?


「お腹痛い…。」


そう言ってスッと立ち上がった。なんだかもうこの場にも居たくないし、この女とのやりとりを見ているのも聞いているのも嫌で。でもギュっとあたしの手首を掴むのは樹。


「いいから傍に居ろよ。」


グイって強引に引っ張られて無理やり座らされて樹の手があたしの肩に回る。まるでケンちゃん達に対抗するみたいにあたしの髪を撫でたり頬を指で突いたりする樹に内心気持ち悪いと思いながらも目の前でちょっと動揺したケンちゃんの表情に嬉しくなって樹の肩に頭をもたげた。


「おい樹…。」


だからケンちゃんが樹を呼んだのがまたちょっと嬉しくて。


「なんだよ?」


ぶっきらぼうに答える樹の鎖骨に頭をグリグリ押し付けた。ふわって頭を撫でる樹に「朝海、お前どうしたの?」不満気なケンちゃんの声。でもケンちゃんが悪いんだよ?ケンちゃんがあたしをほおってその知らない女とベタベタしているのが悪い。


「なーに健太?」


悔しいからあえて「健太」って呼ぶあたしに、ケンちゃんは静かに珈琲を飲んだ。でも隣の見知らぬ女Aは、そんなあたし達を見てこう続けたんだ。


「相変わらず、素直じゃないのね、健ちゃん。」


クスっと微笑んでケンちゃんの肩をポンっと叩く。…―――お腹が煮えくり返る想いだったなんて。



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