恋、してる?
【said 朝海】
健太の車でドライブに来ているあたし達。後ろには何故か樹。元々無口だったけど今日は特にご機嫌斜めな様子。助手席から後ろを向いて樹を見ると目が合った。
「よかったの?北ちゃんとゆきみ一緒に置いてきて?あたし樹は残ると思ってたけど?」
「ぐふふふふ。ほーんと、デートが台無し。」
ケンちゃんの大きな手があたしの髪を一撫でする。それがちょっと心地良い。視線をケンちゃんに向けると、サングラス越しにあたしを見て笑った。
「…まぁ。」
それだけ言うと腕を組んで目を閉じた。樹ここにいる意味無し!空気か。
「じゃあ聞いてもいい?」
あたしの言葉に軽く目を開ける樹。眉間に皺を寄せて怪訝な顔をした。そんなの関係ない。
「いつからゆきみのこと、好きなの?どうやってゆきみのこと誘ったの?」
「ぐふふふふ、古傷だったりして。」
「ぐふふふふ、古傷だったりして。」
ケンちゃんの言葉と独特な喋り方を真似するとポコっと頭を軽く殴られる。
「真似すんな。」
「えへへ。」
隣にケンちゃんがいると、自然とあたしも心を開放できるのか、無理して笑うこともなかった。そんな風に始まる恋なんてものを知らないあたしは、このふわふわしたものを追求することもないわけで。あたしの質問に樹はこっちを睨みながらも小さく息を吐き出した。
「物心ついた時からで、北人のこと考えないようにさせてやるって、最初は興味本位もあったけど…。」
まるで、これで満足?とでも続きそうな樹の表情にあたしは苦笑い。隣のケンちゃんを見ると優しく微笑んでいる。
「あーもういいや。ケンちゃんは?ケンちゃんはどんな恋、してきたの?今、恋、してる?」
ほんの一瞬目を見開いた後、「やっとオレに興味持ったな。」柔らかいケンちゃんの声に小さく笑ったんだ。
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