避けられてる?

【said 壱馬】


三日目の朝、むっちゃ嫌な気分やった。なんや嫌な夢見たんに覚えてへんで、同室の慎は相変わらずご機嫌。みんなで朝食を食い終わるとマイコが冷蔵庫を見て溜息をつく。


「だめだ、全然足りない。買い出し行かなきゃ!」
「ほんなら俺も一緒に、」
「平気。陸車出して貰える?」
「ああ、分かった。」


…―――え?なに?
一瞬何が起きたんか分からんぐらいサラっと言われて。俺をカケラも見ることなくマイコがくるりと背を向けた。


「俺も行くよマイコ。荷物持ちなら任せて?」
「あは、頼もしいなぁ、まこっちゃん、ありがとう!」


ちょう待てや!なんで俺が「平気」で慎が「頼もしい」やねん!?まさかもう付き合うてるん?肩にかかるマイコの黒髪をふわりと慎が触ったことに無性に腹が立った。わざわざ俺に見せつけるかのように…。二人で見つめあって微笑みあうマイコと慎に、俺はイラついて煙草片手に庭へ移動した。昨日マイコと二人で川に飛び込んだ時は普通やってんな。


「一日で何が変わってん…。」


イラつく心を煙草で紛らわせる。吐き出した煙がかかったんかゆきみが渋い顔でゲホゲホむせてん。


「うわ、ごめんやでゆきみ…。煙あかんかったやんな、ほんまごめん。」
「…大丈夫。壱馬も一緒に釣り行かない?この後北ちゃんと釣り行くんだけど、北ちゃんと二人じゃ色々心配で…。」
「ちょっと!酷くない?ゆきみ。俺と二人じゃ何が心配なの?」


北人が大声出してキレてんねんけど、逆にそれがちょっとだけ癒されてん。ほんまは邪魔したないけど、誰か一緒におらんと沈みそうやわ…。


「行こうかな、俺も。北人ええか?」
「いいけど。」
「そない嫌そうな顔、すんなや。」
「だって俺と二人じゃ心配って…。」


ガシっと北人の肩に腕をかけて「照れてんやって、ゆきみ。」そう言うとカアーっと北人が真っ赤になってん。ほんま純粋すぎるほど純粋やなお前。一本吸い終わって振り返ったらもう、コテージん中にマイコ達の姿はなかった。陸の車がエンジン音を立てて出発していく。なんで離れるん、マイコ。俺、なんかしたん?…誰か教えてくれや。



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