ずるい人
【said マイコ】
「うそ、信じらんない、ゆきみが飛ぶなんて…。」
思いの外あっさりと樹と一緒に川に落ちたゆきみに開いた口が塞がらない。もうここまで来たら飛ぶしかない、の?恐る恐る下を見ると想像よりもずっと高い。まこっちゃんが複雑な顔で私達を見上げていて…。
「壱馬…私まこっちゃんと、」
「マイコ。比べんといて、慎と。慎は慎で俺は俺やん。頭ん中で思ってることよりも、俺はココにあるもん大事にせな…って思うねん。」
トンって自分の胸を軽く叩く壱馬。それは私にも共通することで。
「あの…でも。」
「そんな怖がらんと、素直になれへん?」
「壱馬…。」
「今むっちゃ楽しいわ俺。」
「え?」
「マイコが隣におるからやんな、絶対!」
ニって笑う壱馬に何も言えなくなる。私だってできることなら壱馬と一緒にいたい。大学に入って初めて好きになったのが壱馬で…。朝海からマイコが好きそうなのいるよ…って紹介されたのが壱馬だった。仲良くなるにつれて壱馬の男らしさとか優しさとか…惹かれずにはいられなくて。でも昨日私に真っ直ぐに想いを伝えてきてくれたまこっちゃんの気持ちはすごくすごく嬉しくて。ほおっておけないのは私の性格じゃなくて、まこっちゃんだからだって…嫌いな人とキスはしない。
うううん。好きじゃななきゃキスなんてできない。
「壱馬ってずるいよね。傍にいると思ったら急にいなくなっちゃうし、かと思えば隣にいてくれるし…。」
好きも嫌いも壱馬の口からはないけど、分かる。
「それは、ごめん。」
「朝海は壱馬にとって、」
「友達やん、朝海。ゆきみが朝海と同じことになっても俺、変わらんよ。」
「うん…。」
「けどマイコは…―――やっぱ特別!ほな、いくで!」
「えっ、ちょ、。待っ!!!!」
グイって腕を引っ張られて壱馬の背中が目に飛び込む、ふわりと身体が浮いた瞬間、真下にズビュンっと落っこちた。水の中で目が合うと壱馬がふわりと微笑んだ。
ほんと、ずるい人。
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