盲目

【said 慎】

マイコの存在が俺の中でどんどん大きくなっていく。元々可愛いなー程度だった気持ちも、いつどこでどうなるかなんて分からない。


「あのさ、好きじゃない人とキスってする?普通。普通の考えね、ごく一般的な。」


俺の問いかけに壱馬はキョトンとした顔を見せている。ちょうどマイコがトイレに行くってコテージに戻ったのをいいことに、壱馬にそう聞いたんだ。


「は?お前誰かとしたん?」


壱馬に聞かれて思わず固まる。まさかマイコとしたとは言えないよね?


「まぁ俺はせえへん。よう遊んでそうに見られがちやけど、そこはあかんやろ。そーゆうのは好きな奴以外とはできひんわ、俺はな。慎もそうやろ?」
「そりゃ俺もそうだと思う。樹はさ、ゆきみのこと好き、だよね?」


少し離れた場所ではしゃいでる樹とゆきみ。ゆきみの女の気持ちは俺ら男にはとうてい理解できないもんだと思う。でも樹は…


「好きなんちゃう。好きやから北人見てるゆきみごと受け止めるしかなかったんちゃう?いつか自分のこと見てほしい…って、そんな気持ちもあったんかもなぁ、樹も…。」


煙草を咥えた壱馬が、手に取って白い煙を吐き出した。壱馬の言葉に違和感を覚えたものの、それがなんなのか浮かれポンチな俺には気づくことができずに、それを後々後悔することになるとは、この時は気づきもしない。

人を好きになったら自分がこんなにも周りが見えなくなるとは思いもしない。マイコが誰を見ているのかも、分かっているようで分からなくて、キスをしたことで俺はここにいる誰よりも一歩前に出ているような気になっていたんだ。


「壱馬、あんまり飲みすぎないでよ?」


トイレから戻ってきたマイコが、煙草とビールを手にしている壱馬にそう言うと、壱馬がニッコリとマイコに微笑む。


「マイコも飲もうや?」
「え、私も?」
「そー。はい、」


ビールをマイコに差し出すとそれを受け取ってゴクリと飲むマイコに身体がカアーッと熱くなる。たかが間接キスに全身から嫌悪感が溢れる。大好きな壱馬にだって、マイコを触られたくないなんて。



― 44 ―

prev / TOP / next