陸の願い

【said 陸】

川原に戻るとゆきみと樹がいた。昨日はもう壊れちゃうんじゃないかってくらい泣きじゃくるゆきみは、俺から見ても北人に一途で。樹との過去には驚いたけど、そんなことでゆきみへの気持ちは変わるもんじゃない。


「朝海は？陸。」


健太が一緒にいない朝海を心配してそう聞いた。なんて答えりゃいいのか…


「…ごめん、色々あって。」
「吊り橋だな？」
「ああ、行ってやって欲しい…。悪い。」


ポンポンって健太が俺の背中を叩くと早足で吊り橋の方へと駆けて行った。あの背中を見て少なからずホッとしている自分もいて。朝海に恋愛感情はないけど、次に会う時にはちゃんとした友達になれたらいいなって思う。それはあくまで俺の我儘だけど。朝海はそんなこと望んでないってことも分かってる。でもいつか朝海とちゃんとした友達になれたらって思うんだ。


「ゆきみ、具合は大丈夫？」


樹の後ろにいたゆきみの傍に寄ると俺を見つめた。一晩泣き腫らしたみたいに目の上腫れちゃってるけど、みんな気づかないフリ。


「りっくん、心配かけてごめんね。もう大丈夫だよー！」
「そっか、よかった。後で２人で話したいんだけど、いいかな？」
「うん。もちろん！」


ゆきみの髪を撫でるとちょっとだけ困った様に目を逸らした。俺も結局朝海の後を続くんだろうって、思う。でもこの恋は打ち明けないと前にも後ろにもいけない。例え未来が見えなくてもせめて俺の想いを分かってもらいたい。
泣き腫らした顔のゆきみを守るようにベッタリな樹も、俺と同じ気持ちなんだろうな。ゆきみはいったい誰を選ぶんだろうか。


「よし、気合いっ！」


頬をパンパン叩いて俺はサッカーボールを手にリフティングを始めた。300回越えしたらきっとゆきみに伝わる！そんな願いのような祈りを込めて。

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