嘘つきな吊り橋効果

「昨日の百物語、陸ってそんな怖い話よく知ってたよね？ケンちゃんもだけど。」
「俺好きで、稲川淳二のライブ毎年行ってる！」
「はーそれでかぁ！苦手じゃないけど、ちょっと怖かったよ？」
「それが目的だからなぁ！あ、そこ、気をつけて。」


スっと陸が手を差し伸べてくれて、あたしはその手にギュッと捕まる。すぐに陸が離そうとするけど「もーちょっと繋いでて、結構高いよ、ここ。」そう言うあたしの言葉に陸の力が少し抜けた。


「すごい景色だな。」


吊り橋のど真ん中から眺める景色にあたしも陸も言葉を失う。こーいう時キャンプに来てよかったと思える瞬間なのかもしれない。それとも、この景色、ゆきみにも見せたい…そう思ってる？ねぇ、陸、こっち向いて。あたしを見て…。

気づくとあたしは背伸びをして陸の首に腕を掛けていた。そのまま吃驚した顔の陸に顔を寄せて、その唇にそっとキスをする。ほんの一瞬固まった陸にもう一度唇を押し当てる。お願い届いて、あたしの気持ち。こんなにもこんなにも、陸が大好きだってこと。陸だけが大好きで苦しいんだよって…


「よせよ、」


吐き捨てるようにそう言った陸は、あたしが重ねた唇を手の甲で拭った。だから悔しくてもう一度そこにキスしようと背伸びをして陸に顔を寄せると思いっきり顔を逸らされて、ドカっと後ろに尻餅を付いた。陸に押されて吊り橋が少しだけ揺れる。


「好きだよ、陸！ずっとずっと陸だけが好きだよ！あたしのこと、」
「ごめんっ！！」


言葉を遮られて陸があたしから一歩離れた。


「どんな言葉貰っても俺、朝海のこと恋愛対象に見れない。俺はゆきみしか好きじゃない。だからごめん。本当にごめんっ。」


ご丁寧に頭を深々と下げてそう言うと、陸は１人歩いていく。あたしをここに置き去りにして。最後まで告白すらさせて貰えないとか…


「陸のバカヤロー！陸のバーカ！陸のバカッ…陸の…―――嫌いになんて、なれないよっ…」


とめどなく溢れる涙に胸が至極痛い。悔しいのか、悲しいのか、それとも苦しみから解放されたからなのか、止まらぬ涙を１人流していた。

― 41 ―

prev / TOP / next