最悪なバイト


いったん着替えようって家に帰ったんだ。でも玄関にはパパのとは違う男用の靴があって。絶対にパパの前では見せない女のママがそこにいた。ああなんだ、だから離婚するんだ。パパはママに裏切られたんだ、可哀想に。仕方ないからパパと一緒に居てあげる…なんて思ったんだ。だけど現実はそんな甘くない。
嫌いなメイク。大人っぽく見える為にコテで髪を巻く。デパートのトイレで見る見る変わっていく自分を見て、本当の自分すら見失う。
楽しくもない話に笑って、納得もしてないことを受け入れて、私って一体なんなんだろうか。だからって何がやりたいなんてこともなく、のうのうと生きるしかないんだろうか、この先。

6時に渋谷で待っている私の前を通り過ぎていくサラリーマン達。だけどそこにいたんだ、パパも。確かに知らない女と腕を組んで。なんだ、パパもママを十分裏切ってる。どっちもどっちじゃん。じゃあ私、どっちにもついていきたくない。大人なんて誰も信用できない。


「はいこれこはるのね。」

「…え?」


手渡されたのはホテルの名前と部屋番号。なに、これ。グループのリーダー格であるサキを見るとニッコリ微笑んだ。


「杏子、今日デートクラブじゃなくてウリの方だったってさ。だからこれこはる行ってあげて?友達だよね、あたし達。」

「え、できないよ、私…。」

「なんで?別に目瞑っとけばすぐ終わるから。ね?」


肩をぐっと押されて「今更逃げんなよ。」ってそう言われた。こいつらの神経腐ってる。未成年だからって罪になることは極力したくないの私は。でも言えない。言ったら私が標的になる。くだらない、それでも壮絶な虐めの標的になっちゃう。


「うん、分かった。」

「じゃあね、終わったらみんなでクラブ行こう!LINEして。」

「うん。」


紙をクシャって握りしめる私を見てサキ達は手を振って去って行った。どーしよう。どう、しよう。ボーッと街を歩いていた。ホテルに行かなきゃだけど足が進まなくてプラプラと。


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