やきもち

「…先輩、なんで?」


日直の仕事って、先生にあれやこれやと押し付けられて気づくと時計の針はもう18時を回っていた。やっとの思いで下駄箱へ向かう私の目に飛び込んで来たのは学ランの俊先輩だ。
下駄箱に寄り掛かるようにしてそこにいる先輩は、私の声にこっちを向いた。


「遅せぇ。」


たった一言だったけど、そこに俊先輩の優しさが込められているようで、私は駆け寄った。
別に待っててなんて言ってないし、いつだって私なんて置いて帰っちゃうのに、こんな風に時々俊先輩は私を甘やかす。
そしてたぶん、その理由は…


「どいつだよ。」

「え、なにが?」

「お前に告ってきたの。」


ムスッとそう言われて思わず頬が緩んだ。緊張していた筋肉全部下がっちゃいそうで、この前呼び出されて「付き合ってくれない?」と言った同級生の下駄箱をそっと指さした。次の瞬間、私の手首は俊先輩に握られていて、そのまま告白した同級生の下駄箱を背にトンってまさかの壁ドン。
ドキドキしたのは当たり前で、俊先輩にバレていたことが恥ずかしくも嬉しいなんて。
だからこうして待っててくれたの?そんな行動を起こす俊先輩がめちゃくちゃ可愛く思えた。


「センパイ…。」

「教えてやった?お前の気持ち…。」


髪を撫でる仕草が優しくてまたドキドキする。その強い視線で見つめられると、この世のものがどうでもよくなるんだよ。ボブが伸びた毛先をくるりと指でもて遊ぶ俊先輩にコクッと頷く。


「うん。好きな人いるからごめんって…。」

「へぇお前、好きな奴いるんだ?」


余裕そうな俊先輩に、目の前にいるよ!なんて言えず。むしろ先輩はそれを言わせようとしている?私の気持ちなんて分かりきっているくせに。毎日俊先輩に逢いに言っているのは私の方なのに。


「誰、それ?」


やっぱり俊先輩は私に言わせようとしているんだって。ゆっくりと肩に置かれた俊先輩の手はツーって腕に触れてダランとしていた私の指先にちょこっと触れる。それがもどかしくて触れたくて、私の方から先輩の指をキュッと絡めた。ニヤッて口端を緩める余裕な俊先輩を見つめて…


「俊先輩しかいない。俊先輩以上の人なんていないよ。」


まるでご名答なんて続きそうな俊先輩の口元。でもふわりと笑うだけで私の指を絡めたまま握ったまま下駄箱に押し付けた。一歩距離を詰めた次の瞬間、俊先輩の甘いキスが私を包み込んだ。

勢いよく触れたわりに、優しい唇に胸がキュンとする。


「俺の女に告るなんていい度胸なのは認めてやるけど…。帰んぞ!」


唇を離した後、照れ隠しなのかそう言うと、俊先輩はさり気なく右手を差し出していて。そこに触れるとゆっくりと歩き出した。疲れも何もかも飛んでいく、癒しの大きな右手。


やきもち
(え、キスもう終わり?)
(あ、もっとしてぇの?)
(したいよ、もっと。)
(んじゃ俺ん家連れてく。朝までコースな。)
(ドキドキ…。)


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