スイッチオン

「北人に内緒で付き合ってよ。」


樹にそう言われたあの日から、私達は共犯だ。


「ゆきみ、樹が映画見に行こうって。」
「え、今日?」
「うん。部活休みだし。」
「テスト勉強は?北ちゃんー。私英語無理ー。壱馬に教わらないとヤバいよー。」
「明日にすれば?せっかくだし久々に3人で行こうよ?ね?」


放課後私のクラスに迎えに来てくれた王子様は、半年前から付き合ってる私の彼氏の北ちゃん。超ピュアな北ちゃんと付き合うのはとっても心が穏やかになっていいんだけど、時に女は刺激を求めてしまうものなんだと私は知った。


「はい、ポップコーン。樹も食べる?」
「いらねぇ。」


そう言って私を挟んで両サイドに座る北ちゃんと樹。定番のポップコーンとジンジャエールを私に買ってくれた北ちゃんは、映画が始まると眠かったのか、こくこくと頭を揺らして挙げ句、コテっと私の肩に頭を軽くもたげた。


「北ちゃん?」


声をかけても全くの無反応で、いつもバスケの練習頑張ってるから寝かせてあげようって、ポップコーンが落ちないように私が抱えた。


「寝たの、北人?」


反対側、右耳に唇をくっつける樹に苦笑い。チラっと樹の方に視線を向けると、暗闇の中目が合う。その大きな瞳にドキッとしたなんて。


「うん、疲れてるみたい。」
「ラッキー。」


樹の弾んだ声の後、私を覗き込むようにしてチュッて小さなキス。慌てて樹の胸を手で押すと、その手をぎゅっと握られてもう一度重なる唇。ムチュって感触のあと、舌で唇をこじ開けて私の口内をペロリとひと舐め、ゾクリと身体が震えた。


「樹、だめ。」
「なにが?」


遊ぶ様に私の耳朶を甘噛みする樹に、身体が反応しそうで。指をきゅっと優しく絡めてくるからずるい。強引なくせに触れる指先はすごく優しいなんて。


「ゆきみ不足だったんだよ。北人に独占されてっから。キスぐらい好きなだけさせろよ。」


首の後ろに手をかけて顔ごと樹の方に向かされて甘いキス。蕩けそうなぐらいゆっくり舌を絡める樹に、身体の奥からゾクゾクするんだ。本当はこんな関係やめなきゃダメだって分かってるけど、樹に触れられるとたまらなく心地よくて離れたくない。


「ンッ、樹…。」


手を自分のソコに誘導させられて、制服の上から触れたそこはちょっとだけモリっとなりかけている。このまま触り続けたらどうなる?思わずゆっくりと撫でると「ハアッ…そのまま触って…。」甘く囁かれた。

だけど、次の瞬間北ちゃんの頭が私から離れる。慌ててポップコーンを口に入れると北ちゃんがまじまじと私を見てこう言うんだ。


「樹にゆきみ取られる夢見た。うわー寝ちゃってた。」


…気づいてるの?そう思ったけど結局北ちゃんはそれ以上何も言うこともなかった。―――でも…。


「じゃあね、樹!また!行こゆきみ。」
「え?どこに?」
「どこって、うち。テスト勉強二人でしようよ。」
「あ、うん!」


ポカンとしている樹を置いて私を部屋に通した北ちゃんは、おもむろに私にキスをした。ベッドの上で肩を抱かれて北ちゃんからのキス。樹と違って優しくて可愛いキスが多い北ちゃんは、「ゆきみ…。」一つ名前を呼ぶと遠慮がちに舌を入れ込んだ。思わず目を開けると北ちゃんも薄目だったのかスっと離れて。


「あの、ダメ?」


照れくさそうな顔と声。困った様に私を見つめた後、「なんか急に物凄くゆきみのこと欲しくなっちゃって…。」うわーお!可愛いすぎ。


「北ちゃーん。」


ぎゅって抱きつくとそのまま私をベッドに押し倒す。北ちゃんの首に腕をかけると、また遠慮がちに唇が重なる。


スイッチオン
(アッ…やばい俺もっ…。)
(ンッ…いいよ。)
(…―――――クッ…。)
(北ちゃん、可愛い…。)
(ゆきみのが可愛い…。ね、もっかいシたい…。)
(…え、北ちゃんどーなってんの?もう3回もシたのに。)
(だって、気持ち…。)
((これなんの、スイッチ入った?)…う、うん。体力持てばね。)


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