ガチャンッとどデカイドアを開けた岩ちゃんが菓子パンを加えて飛び出てきた。通学路の途中にある岩田邸。この辺の地主で洋館みたいな出立ちだ。頭良くてスポーツできてみんなから人気者の岩ちゃんは私の漕ぐ自転車に飛び乗った。
「はぁー助かったー。」
そう言って後ろでバクバクパンを頬張っているに違いない岩ちゃん。いつもいつも思うけど、なんで女の私が漕いでるの!?
「重い!重い!重い!」
「嘘ー。俺今絞ってるからそんな重たくないはずだよー!」
「私女、剛典オトコ!重い!」
「ちょっとー急に剛典とか呼ばないでよ、照れるじゃん!」
コツンって私の背中に頭をもたげる岩ちゃん。絶対反対!それ私がやりたい!なんで好きな男を乗せて登校しなきゃなんないのよー。もう。やだやだ、もう。
「帰りは岩ちゃんが漕いでよ。」
「え、なんで?」
「なんでじゃない!ちょっとは女心をお勉強して!」
「ふは、りょーかい。」
学校に着いた途端、椅子を押して飛び降りた岩ちゃんは食べかけのポッキーを私に差し出して「あげる。今日のお礼。帰りも迎えに来てね!」軽く手を挙げて軽快なステップを踏んで廊下を進んでいく岩ちゃんの後ろ姿に小さく溜息をついた。あー私の恋はいつになったら報われるの?
半ば諦めかけていた放課後。ダンス部の終わる時間を見計らって迎えにいくとそこには岩ちゃんしか残っていなくて。大きな鏡に向かって汗を流す岩ちゃんのクランプにただじっと見とれていた。ベビーフェイスな岩ちゃんが最も男を出す瞬間がこのクランプを踊っている時なんじゃないかって。こーいうの見ちゃうと普段私に甘える岩ちゃんも結局許せてしまう。惚れた弱みって奴。
「あ。」
鏡越しに目が合うと岩ちゃんが動きを止めた。
ニコッと優しい笑みにドキッとする。振り返って「ちょっとだけ待ってて。」そう言うと、iPhoneから曲を流した。キッと表情をしめると、岩ちゃんのパフォーマンスが始まった。途中から面白くなってきたのか、どんどん笑顔が零れる岩ちゃんに声も出さずにただ見とれたんだ。
「よし、帰ろっか。」
「え、うん。」
「クランプ、女の子苦手な人多いけど大丈夫だった?」
「うん。むしろ好き!本能って感じ、」
「本能?はは、やっぱ面白れぇ。」
「え?」
「手繋ごっか?」
「え、」
私の疑問に答えてくれずにそのまま自転車置き場まで手を繋いで歩いた。鍵を私の手中から奪い取るとそれを差し込んで前に構えた。
「色々考えたけど、甘えられる相手ってお前だけだから、そこ自信もって。」
ハンドルを握った手を離すと、私の腕を掴んで引き寄せられた。ほんの数秒重なる唇に目を大きく見開く。
「隙あり。ほら早く乗って!」
後ろに乗った私の手を自分の腹筋に巻き付けると岩ちゃんは軽々と漕ぎだした。
「あ、これ筋トレになるなぁ。明日から俺が漕いでやろうか?」
「いい。私が漕ぐ!」
「はは、んじゃ甘えるー。」
「仕方、ないわね。」
ポンポンってお腹に回した手に重なる岩ちゃんの手。大きな背中にコツっとオデコをつけた。
【END】