守ってあげる

「なんだ、大したことないじゃん、登坂の彼女。」


すれ違いざまにそう言われた。え?私のこと、だよね?振り返ってみると、あっちもこちらを振り返っていて、目が合った。あれ、サッカー部の先輩だよね、確か。臣に恨みでもあるの?


「元気ないね、どーした?」


ポンッて背中を叩かれた。お昼休みパンを買いに行って臣くんの教室に顔を出すと既にお弁当を食べ終えていて。私が買ってきた焼きそばパンを待っていたから差し出すと嬉しそうに100円をくれた。
今時彼氏とお昼を過ごすなんて笑われるかもしれないけど、一週間のうち水曜日の今日だけは一緒に食べるって決めて食べている私達。


「んー。なんでもないよ。」

「ほんと?嘘ついたらキスするよ?」


ちょっと面白そうにそう言われて苦笑い。言ってもいいのだろうか?臣くんが嫌な気持ちになるだけだよね。


「ほーら、なんかあるなら言えって。」


前髪に触れた手が温かくてその瞳は優しい。いつだって私に優しい臣くんについ甘えてしまう。


「大したことないじゃん、って。」


だけど、そう口にした瞬間、目の前の臣くんの目つきが一気に変わった。私達をまとう空気も荒々しく。焼きそばパンを置いてジロリと私を見た。


「なに?どーいう意味?」


…やっぱり、怒るよね?困ったな、言うべきじゃなかった。でも今更後に引けなくて。苦笑いのまま私は致し方なく続けた。


「大したことないじゃん、登坂の彼女…とすれ違いざまに言われました。」

「誰に?」


ド低い声でそう聞かれて、思い浮かべるさっきの先輩。言ったらどうなる?チラリと臣くんを見ると瞬きもしないで私を見ている。目力強すぎて倒れそう。言わなきゃわたしがやられる?


「確か、サッカー部の先輩。」

「あいつらか、あのヤロウ。許さねぇ。」


ポンッと私の頭に手を乗せると立ち上がって歩き出す。慌てて私も臣くんの後を追う。


「待って、どこ行くの?」

「人の女馬鹿にされて黙ってられっか。」

「私はいいから!気にしてないから、やめよう?」

「無理だ。他人にとやかく言われたくねぇ。お前は胸張って俺の彼女だって言ってろ。」


…嬉しいけど、嬉しいけど、喧嘩はよくない。でも力じゃ到底適わなくて、こうなった臣くんは止められない。3年の教室に乗り込んだ臣くんは、先輩の苗字を大声で叫んでそのまま勢いよく殴りかかった。目にもとまらぬ速さで、次の瞬間思いっきり臣くんが後ろにぶっ飛んだ。机にぶつかったというよりは、鼻を殴り返されたのか、鼻血が吹き出した。周りにいた生徒から悲鳴があがるけど、臣くんはそんなのお構いなしに先輩を殴り続けた。



「大丈夫?」

「痛くて死にそう。」


救急車で病院に運ばれた臣くんは鼻の骨が折れていた。顔がちょっとだけ変形しちゃって、包帯でグルグルにされてしまった。
治療を終えて出てきた臣くんを見て泣きそうな私の隣に座ってふわりと肩を抱く。


「嘘、全然痛くねぇよこんなの。先生大袈裟なの。だから泣くなよ。って、泣かせてんの俺か、ごめん、マジで。」

「ううー。無茶しすぎ…。」

「はは、ごめんって。けどお前のことはこれからもずーっと守ってやるから安心しろよ。」


グルグルの包帯の中、ニカッて眩しいくらいの笑顔に悔しいけど好きだと思わずにいられない。こんな愛情深い人そういないよね。


「あれ、これ巻いてるからキスできねぇじゃん、ちょっとこれ外して?」

「ふは。痛いよキスしたら。今日は我慢ね?」

「は、無理。外してよ。」

「だーめ!」


目の前でしょんぼりする臣くんの髪をふわりと撫でた。


【END】


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