脱、幼馴染

「ねーまだ帰らないの?別に健ちゃんのせいで負けたわけじゃないんだから。」


ダムダムってボールの弾む音。もう何度となくフリースローを打ち続けている、目の前のこの男、山下健二郎。今日の練習試合で、最後のファールでフリースローを2本とも外して惜しくも試合終了のホイッスルが鳴り響いた。2本決めたとしてもあと1点足りなかったからどの道もう1点入れなきゃ勝てなかったけど、フリースローの時点で既に時間なんて残っていなかった。キャプテンだからってのもあるかもしれないけど、相当悔しかったんだろうなーとは思う。


「先に帰ってええよ。」


振り向くことなくそう言う健ちゃんに小さく溜息をついた。こーいう時どーしたらいいのかな?タッチの南ちゃんはキスで慰めたよね?まさか、それ?私もそれするべき?いやいや出来るわけないよ。確かに健ちゃんとは幼馴染って関係だし、ぶっちゃけるなら私はずーっとこの鈍感のことを好きでいる。健ちゃんと離れたくなくて高校も同じ所にしたし、部活もバスケ部のマネージャーをかってでた。だけど健ちゃんが私を意識していなきゃなんの意味もないよね。


「やだよ、帰り道で痴漢がでたり、襲われそうになったら怖いもん。」

「お前なぁ、鏡見てから言え。」

「むっかー。私先週告られたよ。」

「はっ!?誰に?」


さすがの健ちゃんも吃驚したのか私を振り返った。汗だくの健ちゃんにタオルを渡すとそれで顔をワシャワシャ拭く。でもその目は真っ直ぐに私を捉えていて。


「臣くん。」

「冗談やろ、臣がお前に惚れるわけないやん。」

「なんで言い切るの?」

「なんでって、なんでもや!絶対ないわ、嘘つくな!」


ペシッてオデコを指で弾かれる。なによ、そこまで言い切らなくてもいーのに。あー嘘だよ。臣くんには相談しているだけで、告白なんてカケラもされてませんよーだ。心の中で大きくアッカンベーをしてから健ちゃんを小さく睨んだ。


「健ちゃんの気引こうとしただけだよ、バーカ。」


きっと分かってる。私が健ちゃんを好きだってこと。分かってて何も言ってこないから健ちゃんに気持ちがないんだって、それも私は分かってる。でもそろそろ前に進みたい。ダメならダメでちゃんと他の人見ていかなきゃって―――


「なに?」


後ろから健ちゃんの温もりに包まれていて。触れている健ちゃんの心臓なのか、物凄い早鐘をうっている。


「知ってんねん臣は―――俺の気持ち。せやからお前に告るなんてせえへん。」

「え、なに、健ちゃんの気持ち?え、」


くるりと身体を半転させられて目の前に覆いかぶさるように健ちゃんの顔が寄せられた。ムチュって触れたその唇は生ぬるい。私達今、キス、してるの?目の前の健ちゃんは目を瞑っていて、健ちゃんのキス顔って、こんななんだ…そう思ってボーッと見ていた。パチッと目が開いた健ちゃんと思いっきりド至近距離で目が合って苦笑い。


「ずっと好きやった。せやからどーしてもええかっこしたかってん。次の試合は絶対勝つ!せやからそしたら俺の女になってくれや?」


初めて聞いた健ちゃんの気持ちに身体が熱くなる。でも、そんなの嫌。首を横に振る私を見て健ちゃんが苦笑い。


「嫌よ、次の試合までなんて、待てないっ!今すぐ健ちゃんの彼女になるっ!」


ガバッて抱きつくと、しっかり受け止めてくれた。ギュッて抱きしめられて健ちゃんの香りを強烈に感じる。


「なんか、ベタベタするー。汗臭い。」

「あほ、しゃあないやろ。文句言うな、男なんてみんなこんなもんや。」

「でも嬉しい。健ちゃん大好き!」

「おん、俺も、めっちゃ好きやで。」


そう言って近づく健ちゃんにそっと目を閉じると、フライング気味に唇が重なった。やっと届いた私の想い。


【END】


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