相合傘

HR終了のチャイムが鳴り響くと部活に行く生徒は颯爽と出て行き、残ってお喋りする生徒はおもむろにスマホを取り出したりで。あたしも取り出したスマホのカバーを開いた瞬間、【今から行くね!】愛しのケンチ先輩からのLINEが届いた。自然と顔は緩く微笑んでいて、慌ててカバンの中からリップを取り出してそれを丁寧に唇に塗る。リップをカバンにしまった瞬間、友達に名前を呼ばれた。


「橘先輩来てるよ!」

「あ、うん。」


カバンを持って廊下に出るとヤンチャな先輩達に触発されたのか?青い髪のケンチ先輩が目尻を下げてニッコリ笑っている。


「帰ろっか!」


大きな手をあたしに差し出してきて、それを握るとキュッて指を絡めてくれた。はー幸せ。
2人で下駄箱まで歩いて行く。


「相合傘しよっか?」


梅雨のせいでここの所雨続きだった。ジメジメしていて嫌だなぁーって思っていたけど、ケンチ先輩と相合傘だなんて、雨も捨てたもんじゃない。いわゆる憧れのシチュエーションだよね、彼氏と相合傘とか。


「はい、こっちおいで。」


大きな傘を開いてあたしを中に入れてくれたケンチ先輩は、数歩歩いて小さく溜息をついた。


「んーこれだと手、繋げないね?なんか悔しい。いや相合傘は嬉しいけど、」


そう言ってまた少し困ったように目尻を下げて微笑んだ。でも次の瞬間ケンチ先輩の柄を持つ手が入れ替わる。え?そう思った時にはあたしの腰にケンチ先輩の手が回されていて。


「よし、これでいこう。」


嘘でしょ!腰なんて持たれたの初めて!恥ずかしい…。そう思うけどあたしも離れた手が寂しくて。


「ケンチ先輩、恥ずかしい。でも嬉しい…。」

「ちょっとだけ寄り道していこうか?」

「はいっ!」


傘の中は二人きりの空間で、ケンチ先輩の息遣いが聞こえるくらいに距離が近くてドキドキする。この日からあたしは、雨が少し好きになったんだ。


【END】


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