「かーずま、何してんの?」
お気に入りの新入生川村壱馬を見つけて階段の上から声をかけた。移動教室のために下の階に降りると、ジャージ姿のまま廊下でたむろってる壱馬を発見してふわりとその腕を掴んだ。
「次体育。先輩は?」
「英語。でも視聴覚室でDVDだって〜。絶対寝ちゃう。壱馬の雄姿見たかったなぁ〜。」
「保健室の一番端のベッドなら校庭見れるんちゃう?」
チラリと私を見てそう言う壱馬。うわ、ナイスアイディアじゃん!
「それって見て欲しいってこと?」
「…別に。」
途端に口をつぐんで俯くから余計に可愛くて。きっちり固めて決めてある髪をクシャっと一撫でした。
「崩れるって。せっかくかっこつけてんのに。」
「それも、私に見て欲しくて?」
「…だから、ちゃう。」
「本当?」
違うって言ってるのに、その顔は嬉しそうで。腕を両手で持ってプラプラと振る私をほんの少し困ったように見つめる壱馬。やっぱり可愛すぎる。
「先輩に触られると色々あかんのやけど…。」
頬を染めてそれでも私の手を振りほどくことのない壱馬に一歩近寄る。
「ね、二人でさぼる?」
「え?」
「壱馬のこと、独り占めしたくなっちゃった…。」
不良ぶってる壱馬は、校内でもどでかい不良グループの中にいる私のことが好きだって噂は耳にしていた。だからこうして私が壱馬にちょっかいかけても、誰も文句を言う奴なんていない。このルックスと負けず嫌いな性格だろうからきっと影ではモテテるとも思うけど…――選ばれたのは私。そんな私の手を握り返す壱馬は真っ直ぐに視線を飛ばす。
「本気にすんで?今の…。」
年下ながらドキっとする。聞き慣れない関西なまりも可愛いし。
「ふは、急に男出したね、可愛い。」
「ずっと男やねんけど…――ゆきみの前では。」
「…じゃ、あっち行ってそれちゃんと見せて。」
壱馬が握った手をキュっと強く握り返すと目を細めて笑った。
エスケープ
(ンッ、壱馬いい匂いする。)
(え、なんやろ、香水?)
(かなぁ。)
(ゆきみこそ、唇柔らかくて甘い…。)
(気に入った?)
(うん。俺だけのものにする…。)
(ふふ、欲張り。)