フェスの後、お台場の居酒屋えぐざいるに行ってパフォーマンスをした。さすがに夏のライブは一曲でも暑くて普段トレーニングしていなかったら開始3分ぐらいでぶっ倒れてるんじゃないかって。終わるとみんなぐったりしてシェアハウスへと帰った。僕らは一つの家でシェアして一緒に住んでいる。まだ一人部屋を貰えていない僕は、同部屋の樹と一緒に部屋に入ると、ベッドの上にポツンと座っている彼女、ゆきみがいた。
「え、ゆきみ!?どう、したの?」
「あ、北ちゃん!」
パタパタって立ち上がって僕に抱きつくゆきみ。ふわりと甘いゆきみの香りが鼻についてほんのりドキッとする。ものの、どうしたの?マジで。
「来てたの?なんかあった?」
「北ちゃん大丈夫?目…。」
「え、目?」
「塩水かけられてびしょ濡れだったって…。」
「…あーなんか見た?」
「Twitter。北ちゃんのツイートの返信に心配している声がいっぱい書いてあって、私何も知らなくて…悔しい…。」
なんだ、それでわざわざ来てくれたんだ。はは、可愛いなぁーもう。ふわりとゆきみを抱きしめた。ギュッて僕に強く抱きつくゆきみの背中を優しく撫でる。
「たまたまかかっちゃっただけだよ。僕は大丈夫だから、ね?心配かけちゃったかな?ごめんね。」
顔を覗き込むと真っ赤な瞳を潤ませていて。
「北ちゃん優しいから、わざと楽しかった!って更新してくれたんじゃないかと思って。気にしてないよ、大丈夫だよ、って。でも本当はショックとか受けてたんじゃないか?って。ファンのこと嫌いになっちゃったらどーしよう?って。」
いつだって優しいゆきみは僕のことを第一に考えてくれて、その愛をストレートに伝えてくれる。あまり自分からいけない僕もゆきみにはいつも素直でいられるのは、こうしてゆきみがその想いを迷うことなくちゃんと伝えてくれているからだって実感する。
「あんなことぐらいじゃ嫌いになんてならないから安心して。ショックも受けてないよ。まぁでもゆきみにこうやって逢えたから逆に嬉しいかも、俺。」
「北ちゃーん。好き好き。」
「俺も大好き。」
「へへ。嬉しい。」
「ゆきみ。」
頬に手を触れさせておデコをくっつけると、照れくさそうに目を閉じた。頬をすり寄せてそのまま指で唇をなぞると、目を閉じたままゆきみが笑った。早く…ほんのり軽く開いた唇がそう動いた。あーやべぇ、すげぇ可愛い。ゆっくり近づく俺の後ろ、不意に聞こえたんだ。
「あの、僕もいるんだけど。」
「えっ!?」
見るな!
(もー樹いたなら早く言ってよ。)
(いや普通に一緒に帰ってきたよね?全くこれだから北ちゃんは。)
(いっちゃん、ごめんねー。)
(仕方ないから出ていってあげる。続きどうぞ!)
(…どうぞだって、どうする?)
(目閉じて…。)
(ふふ、北ちゃん大好き。)