ピンクの恋人

お風呂からあがると直ちゃんがソファーの前で正座をしている。…なに?精神統一?え、


「おう、ちょっとこっちこい。」


ジロリと睨まれてクイクイって手首を曲げてソファーを指さす彼、直ちゃん。珍しく難しい顔をしている。基本御機嫌な彼がそんな不機嫌でいるのか私にはさっぱり分からなくて。ソファーに座って「なに?」そう聞くとテーブルの上に置きっぱなしにしてある私のスマホを指さした。


「携帯?」

「たまたま見えただけだから。中身は見てない。しかしだ、目に入ったら気になる。」


画面に触れるとLINEがきていてそれをタッチすると会社の上司からのLINEで。なるほど、これは可愛い。思わず笑いたくなるのを堪えて直ちゃんを見ると、眉毛を下げて私を見ている。


「これは仕事の内容だよ。」


そう言ってそのまま画面を彼に見せた。ちょっと困ったように文章を読み終えた彼が苦笑いを零す。まぁ確かに冒頭の文章だけなら怪しい。

【僕の黒い恋人さん。】なんて言葉から始まっているそれ。


「藤原さんは営業だからこの話術で顧客を引き付けてるんだよ。みんなに言ってるから。」

「なんだぁ、それならいいけど。でも俺のゆきみのこと黒い恋人呼ばわりするのはちょっと不満。」

「藤原さん奥さんいるから、黒…でしょ、私が相手なら。そういう意味。」

「それならゆきみだって白は俺だろ?」

「うん。白い恋人は直ちゃんだけだよ。」


ソファーの隣、コテっと頼りがいのある肩に頭を乗せた。わりとヤキモチ妬きな性格の私はMVで女性と絡むだけでもモヤモヤすることが多くて自分でもそんな性格が嫌だと思っている。だけどもしかしたらそれが普通なのかもしれない。世間一般の恋人達とは少し違うと思っていたけれど、そんな風に見積もっていたのは自分だけで。こうして私の職場の上司相手に軽いヤキモチを妬いてくれる直ちゃんが愛おしくてたまらない。
太腿にのった手に指を絡めると直ちゃんの視線が飛んでくる。この部屋の中にピンク色の空気がまとったのが分かった。もちろん出したのはこの私。そっと横を見るとほんのり揺れる直ちゃんの熱い瞳。ニコっと微笑んで目を閉じると優しいキスが降りてくる―――。


「ここでする?」


耳朶を甘噛みしながら直ちゃんが囁く声にドクンと心臓が脈打つ。喋ると低いこの声が大好きでいつ聞いてもドキドキする。見つめあってそのまま直ちゃんの首に腕をかけてキスを繰り返す私をすんなり受け入れた直ちゃんはニコっと微笑んで小さく言ったんだ。



ピンクの恋人
(ふは、そうかも。)
(腕あげて。)
(ん。あんっ…。)
(もうビンビンじゃん、あっちょっ…。)
(自分だって。)


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