いつもは買わないグミを買おう

スマホの上端が小さく緑に光っている。
見ると、添付画像つきのメールが1件。








「ねえねえ、見て見て、八ツ橋グミだって珍し〜!黒ごま八ツ橋味ってのが何か悔しいけど〜…でもまあいっか。2人ともグミみたく可愛いもんね。見っけたらすぐ何か赤ちんと黒ちんみたいじゃん?って思ってさ、買っちゃったの。すげー美味しかったし何か嬉しいよね。
赤ちんとキスしたのもう随分前だけどさ、唇やぁらかいのも舌暖かいのも覚えてっしこの先も絶対忘れないだろーなーってか、何かそんな柔らかさでね、しかもしっかり八ツ橋の味すんの。ほんとすげーし!


…って思ったら何か懐かしくなっちゃってねー…。
でも用もないのにメールすっと赤ちん怒るかなって。
最近ちょっとピリピリしてるみたいでさ、俺になら当たってくれて全っ然構わないんだけどさ、そんなん気にしねーし、赤ちん楽になんなら嬉しーし。
でも、またそーゆーもやもやしたの1人で抱え込んじゃったら可哀想じゃん…赤ちんてそゆとこ不器用だからさ、人に頼んのとか。だからちょっとね、あんま下らないことでメールするのも気ぃ引けちゃって…。


ごめんみどちん、愚痴って。
そっちどーお?桜咲いた?こっちはまだまだ寒いよー。
んじゃーね。体に気をつけてね。」








…というメールが来たのだよ(前半の惚気は見なかったことにしてやる)。
とにかくそういう訳らしいから、もし可能ならあいつに何かメールでもしてやってくれ(俺の名前は出すなよ。そんなことをしたらムードが半減なのだよ)。
何か悩み事か?相変わらず紫原はお前のこととなると察しが良いな。
何かあれば相談に乗る。紫原に限らず、…俺たちは皆、お前の味方だからな。
1人で抱え込むなよ。
折角の春だ、花見でも行って気分転換して来い。花見しながらの湯豆腐も乙だろ。
何なら1日くらい付き合うが、先に紫原を誘ってやるのだよ(拗ねるからな)。
あいつがダメならこっちを当たれ。
それじゃ、くれぐれも体に気をつけるのだよ。


To 愛され赤司め
from 真太郎


p.s. 春眠だ、赤司。日に5時間は寝るべきだ。








…作業を止め、しばし緑間の(というか紫原の)メールに見入る。


「敦…///。」


緑間からは見なかったことにしてやる、とあったが、一体何という恥ずかしいことを恥ずかしげもなく告げてくれるのだろう。
秋田からも東京からも離れた京都の空の下、赤司は頬を赤く染めた。


(まあ良いか…見なかったことにしてくれるのなら…。真太郎に二言はないし。)


それにしても、それぞれ文体があるものだな、と赤司は今更ながら思う。
同じ大きさのゴシック体の並びでも、書き手は誰なのかすぐに分かる。


(初めが敦で、次が真太郎。)


だが、文面や言葉は違うとしても、伝えようとしていることはこの場合同じだろうか。


「…」


愛され赤司め。
緑間の打ち込んだ単語がじんわり胸の奥に染み入る。


(やれやれ…また、無理をしていたか。)


中学の時とは違い、傍に赤司の変化に敏感な紫原も、赤司を陰で支え時に仕事を被ってくれさえする緑間もいない。
実渕は1つ年上ということを差し引いてもかなり大人びていて、1年にして主将という立場と責務を背負い立った赤司の気苦労を何かと推しはかり気にかけてはくれるけれど、彼は赤司の無理体質、無茶体質を知らない。
無理に強制的にでも休ませないと中々心も体も落ち着かせようとはしないこの赤色に、これまで紫色と緑色がどれほど気を揉んだことか。
そのストックがない実渕の心配は、やはり他と同様形式的に終わってしまう。


「何なら付き合う、か…。」


心配させたうえ、そんなことまで頼めるわけはない。
だが、やはりじわじわじわじわ胸の奥が温かくなってくる。
今日は午後の練習が終わってからずっとこの作業にかかりきりだったけれど、仕方ない。今日は、もうやめよう。
このところ精神が高ぶっていて眠りが浅く、5時間の睡眠を貪る自信はないが、それも試みてみよう。
朝早く目が覚めてしまったら、起きればいいのだ。
緑間は息を抜くことを得意としない赤司に、具体的に忠告をくれる。
それを実行していると、中々体も精神状態も落ち着き上手くいくようになるから不思議だ。
彼も彼なりに色んなものを背負い込んで、発散して暮らしているのだろう。


「…八ッ橋。」


赤司が京都に行ってからというもの、京菓子を見ては赤司を思い出すと言っていた紫原。
その度メールをしてきた彼の、あの子供っぽい屈託のない笑顔を、今回心配で曇らせてしまったのなら不覚というところ。
紫原は緑間のようにアドバイスなどをすることは少ないが、その代わりいつでも赤司を笑顔にする。
紫原の仕草、声、話し方、思考、文面、ハグ…そのすべてに赤司はほっとするのだ。
メールではさすがにハグはできないけれど、文面を読んでいるだけで、それを打ち込んでいる(大きな体を丸め、彼の苦手な細かい作業を必死に)彼の姿を想像するだけで、言いようのない安心感に包まれる。


真太郎の言うように、まずは敦に連絡を取ろう。


そうしたら、真太郎にも礼を言おう。


もう夜も遅いから、明日朝一番で。








珍しく5時間もの睡眠をとれた体は、寝すぎなのか少し気怠いが心地が良い。
低血圧でぼーっとする頭をベッドボードに乗せ、赤司は小さく呻いた。


文面だけ、添付画像だけ昨夜作っておいたのだけれど(自分が朝が弱いことはもう痛いほど自覚している)、いざ送るとなると少し…大いに恥ずかしい。
だがまだ頭が覚醒していないのを良いことに(恐らくそうなるであろうことを見越していた昨夜の自分、我ながらしたたかだ)、赤司は送信ボタンをタップした。


「敦、この前購買でこんなものを見つけたんだ。
酸味のあるグミだそうだ。知っているか?
僕はめったにグミは買わないけど、つい買ってしまったよ。


敦の色だ。


…恋の味、だそうだよ。


本当に、その通りだな。」


しばらく低血圧に任せ微睡んでいると、思いもしないタイミングでスマホが震える。
着信の相手は紫原敦、おや、電話を掛け直させるほどの文面だったかと未だ覚醒しきっていない頭で通話ボタンをタップすると、聞きなれた声より少し低い、落ち着いた男子学生の声。


「…赤司くん?」


「はい?ぇと…」


「氷室です。陽泉の。」


(ああ、)


「ごめんねいきなり電話して。…赤司くん、敦に何か言った?」


何か、アツシが幸せになるようなこと。


…なんか…さっきからアツシ、幸せオーラがすごいんだけど(笑)。


そう笑って告げる声に、思わず赤司もくすっと笑い。


「すみません、」


と言うのがやっとだった。








ありがとう、敦、真太郎。


僕は、少し、休めました。


真太郎、返信は少し待ってくれ。


久しぶりに…もう少し寝ようと思う。


end.

赤ちんのはぴゅれぐみです。


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