ぎゅっとして抱き締めてぎゅってして。
視線の先の緑色を、つくづく男前だなと思う。
時折自身への戒めのように、人事を尽くす、と彼は言い、その言葉通り日々練習を欠かさない。
そして、その十分すぎるほどの努力の結果として、勝利の女神は常に彼に微笑むのだ。
自分より少しだけ低いだけの、だが一般のそれと比べれば明らかな長身。
自分と同じくそれ故の苦労も多いだろうが、やはり200cmの前後での差は大きい。
彼は何かと物事を器用にこなすし、(若干コミュニケーション能力に残念な部分を抱えているが、それも含めて彼を愛してくれる人が現れるに違いないと自分は思う)、何よりその真摯な態度が彼の最大の魅力だ。
身長の話に戻ろう。
彼の身長は190cmを少し超す程度。
体格も、ゴツゴツして重量感のある自分より少し細身で、腕もそこそこの筋肉と痩身の間のバランスのいいそれだ。
いつだって器用にテーピングされた指先は、長く丈夫な造りのくせにその見た目はほっそりとたおやかで、ピアノを弾くという姿もその指先から想像できる。
だから、ああ、あの腕にぎゅっと抱き締められ、愛されあの胸に抱かれるひとはきっと幸せだろう。
そんなことばかり、考えてしまう。
そして、ふと、眼下の赤に目を向ける。
長い間同じ体勢でいたから居心地が悪くなったのか、もぞと動くその仕草がこの上なく可愛らしい。
一般的と言えば一般的だか、やはり自分から見れば小さな、赤。
その赤を抱き締める、自分の体躯を苦く思う。
あの緑を思う。
あのうでにだきしめられるひとはどれほどしあわせだろう。
おおきくて、それでいてゴツゴツしすぎていない。
きっと遠慮気味に、恐る恐る触れるのだろう。
腕の中の赤を思う。
このうでにだきしめられるきみは、しあわせだろうか。
ゴツゴツしててデカすぎて、力も強くて遠慮もない。
ぎゅっとしたいときに彼を求めるし、ふわり包み込めるようにと思っていても、たまにどうしても力が入る。
それにきみは、一瞬ビクっとするけれどすぐに笑って、甘えただなと言い、ぎゅっとしかえしてくる。
(おれはそれがたまらなくしあわせなのだけれど、赤ちんは、それで、いいのかな。)
「ねえ、赤ちん、」
俺は聞く。
俺のなか、居心地は悪くないですか?
赤ちんは言う。
…紫原、
「俺は何も、生まれたばかりの赤ん坊じゃないよ。自由に動かせる足もあるし、考えられる頭もある。
進んで居心地の悪いところにいったりしないさ。」
紫原、お前のなか、温かくて、好きだよ。
「ほんと?ゴツゴツしてて痛くない?ぎゅってするの、強すぎてない?」
「うん、大丈夫。お前はどうなの?」
俺、抱き心地悪くない?女の子の様に柔らかくなくて。
急に聞かれて、びっくりして赤ちんを見たら、少し不安そうな、め。
俺はもう一回びっくりして、ぎゅってするのに力が籠る。
「そんなことない!赤ちん、俺にぴったり、」
おっきさも、やわらかさも、
ううん、そんなことじゃない。
…赤ちんだっていうことが。
「赤ちんのこと、ぎゅって出来て、抱っこできて、すげー俺、しあわせ。」
「紫原…、」
なら、おあいこだね。
言って、赤ちんは笑って、
そだね。
言って、俺は笑った。
「紫原、」
「んー?」
「ぎゅってして。」
仰せのままに。
end.
緑間は、むっくんから見ても赤ちんから見ても男前。
お相手は高尾でもどなたでも←。
むっくんと赤ちんはお互いに大好きです!
大好きすぎるくらいが良い。
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[mokuji]
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