当社比5倍のイチゴ感。
「ねーねー見て見て、すごいよ赤ちん。」
このアポロ、いちご5倍だって。
嬉々として言うその仕草が、どうしようもなく幼くて、たまらなく愛おしい。
「当社比ってやつ?」
それでも、5倍ってすごいな。
いつものそれと違う、白地にピンクのそれと違う、真っ赤ないちごが印象的なパッケージ。
「美味しい?」
「うん。」
一つ分けてもらったが。
なるほど、いちごが濃いアポロ。
広がる酸味が色々あざとい。
「なんかさ、パッケージ真っ赤じゃん。赤ちんいろだね。」
「いや、普通に赤だろ…。」
ってことは、紫原。
「俺が、当社比5倍ってことだぞ。」
明日から、俺が5人います。
そう言ったら、露骨に嫌そうな顔をされた(少し予想外)。
「あからさますぎだろ…。そんなに…そんなに嫌か?」
思わず声に出す。
すると、紫原はうーん、しばらく眉根を寄せ考え込んでいたが。
すげーかわいい赤ちんが5にん。
ちょーかっこいい赤ちんが5にん。
にこにこえがおの赤ちんが5にん。
てんしさん5にん。
(あの…紫原、///)
おかしたべすぎっておこる赤ちんが5にん。
れんしゅうちゃんとやれっておこる赤ちんが5にん。
…れんしゅうめにゅー5ばい…。
(聞こえてる、だから聞こえてるってその心の叫び!)
あまやかしてくれる赤ちんが5にん。
あまえるなっていう赤ちんが5にん…。
そう言った具合に想像上で勝手に5人の俺を想像しているらしい紫原は、しばらく考え込んでから、うん、やっぱり、と顔を上げた。
「赤ちんは、5人もいらない。」
もう、5人に分散していない、1人の俺だけに向けられた視線。
いつになく真剣な目。
「赤ちんは、一人だからこそ価値があんの。」
で、そのせかいにたったひとりのかけがえのないだいじなだいじな赤ちんは、ぜんぶおれのね。
そんなことを聞いたら、嬉しくなって、恥ずかしくなって。
俺はきっと、当社比5倍くらいに真っ赤になっていたと思う。
end.
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