うそつきのおやすみ


「大丈夫、大丈夫、痛くないよ、痛くないよ」


そう言って君は嘘を吐く。
嘘だ、と俺は言う。
何で?、と君は言う。


だって君は、俺が痛みから逃げるために作った存在なんだから。


「征十郎、征十郎、」


君は呼ぶ。


「大丈夫、何も案ずることはない。」


(いたくないよ、こわくないよ、)


「嘘だ、」


僕は言う。君は問う。僕は言う。君は、問う。


「何故?」


君は問う。僕は黙る。君は問う。僕は、何も、言えない。








『俺より弱い人の言うことを聞くのはやだなあ』








痛かったよ、なんて。
心に深く深く刺さって抉って、痛い思いをしたよなんて。
君が守ってくれるのが、間に合わなかったよだなんてそんな、酷いこと。


「大丈夫、僕が君を守ってあげる」


「、征くん、」


どこだろう、上か、下か、横か、もしかしたら俺の胸の中なのか。
どこからか君の声が聞こえてくる。


「僕が、君を守ってあげるから。」


痛い思いをしないようにね。辛い思いをしないようにね。


「征くん、」


「そう、その名だよ征十郎。」








僕は君の一部なんだ。君が悲しいと、僕も、悲しいんだ。








「征くん、」


ああ、征くん、征くん…
いつから俺の声は君に届かなくなったの?
真っ黒で真っ暗なのか真っ白で眩しいのか分からない世界で、俺は君の名を呼び続けるのだけれど、俺の声は君にもう、届かなくなってしまったんだね。


「征くん、」


俺には分かる。
君は今苦しいはずだ。痛いはずだ。そして誰より孤独で、悲しいはずだ。
俺には分かるよ、征くん。


だって俺は今、すごくすごく苦しいから。


征くん、征くん、
敦に会いたい。皆に会いたい。
君がそうして強がって、一人でいるのが俺は辛い。


征くん、征くん。聞いてくれ。
俺を元に引きずりあげてくれないのならせめて君が俺になり、どうか幸福に生きて欲しい。
君が俺でないからなんて、引け目を感じることはない。君は俺だし、俺は君だよ。
だからどうか幸福に。


(征くん、征くん、)


「今まで、ごめんね、」


君を生み出してしまったのは俺なのに、君には辛い思いばかりをさせた。
君を生み出した俺がさっさと消えてしまえばよかったのにね。今まで本当に、苦労をかけた。


征くん、征くん、俺はしばらく、眠るから。


征くん、征くん、また、会えるよ。


俺は僕であるのだし、僕は俺であるのだし。


「だから君が幸せになるまでに、俺は少し、お休みするよ、」


そして最後に、可能であるなら、








いままたふたたび、敦の横にあって欲しい。



end.

13.11.23

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