ショコラ

「お忘れですよー、」


やや小走りに…と言っても、長いリーチを持つ長身のパティシエ。
長身というには若干日本人離れした体格の彼は、店を出るや否やほんの2、3歩で赤司の元へたどり着いてしまう。
確か、店には一人しかいなかったはずだ…最近出来た有名パティスリーの二号店とあって赤司が店を出た時にはまだ店内には4、5組の客がいたはずだが(それも残りは全て女性だった。名店という点にもまして、そこのパティシエが大層な男前であるとの前評判が明らかに影響していた)、彼女たちへの接客をおしてまで自分を追ってきてくれたのか…と赤司の頬に少しだけ赤みが差す。


だが一瞬の逡巡の後、しかしそれも当然のことかと気を落ち着け、窓を覗き込む男の顔を覗き込んだ。
店内にいたときは、まるでその一粒一粒が宝石のように美しく洗練されたショコラを選ぶのに忙しくあまりしっかりとは見ていなかったが、こうして改めて見ると成る程前評判に違わずの色男だ。
色男と言っても軽薄な感じの全くしない、精悍な顔立ちの好青年だった。
その落ち着いた色気たっぷりの大人の男の顔をして、やけに子供っぽい表情をするんだなというのが赤司の第一印象だ。
顔立ちの大人らしさは体格や社会人としての責任感から来るものか、対する表情のあどけなさは実年齢を表しているように思える。
童顔童顔と言われる自分とは大違いだ。もしかしたら、同じほどの歳なのかもしれない。


「可愛い車だねー」


どうやら店内に置き忘れてしまったらしい商品のショコラの紙袋を差し出すと彼は言った。
初対面にしては横柄なというか馴れ馴れしい口調、それに気怠げな声だったが、赤司はそれに不思議と失礼な印象を持たなかった。


「ショコラって言うんです」


…一体何を期待したのかと自分でも思った。
こんなのは世間話だ。
きっと商品を忘れてくるなんて失態を恥じているであろう客を気遣っての発言に違いない。…だが。


「へー、美味しそうだね〜」


それでも何かを期待してしまう、まるで以前からの心許した知り合いであるようにのんびりと語りかけてくる穏やかな声音に赤司は言いようのない不思議な気持ちに包まれた。


(何だろう、何だろう何だろうこれは…)








だが未だ、恋とは気づかぬそれに落ち。








車が走り去った後、長身のパティシエは見知った道路、その薄桃色の車の走り去った先を眺めていた。


(可愛い人だったなー…)








(…また、買いに来てくれるかなー…?(アレお茶請け?自分用?))


(…玲央、次はいつ来るんだったっけ…(客人用なら…気が楽だ…///))


そして今日、恋と呼ぶその第一歩。


20131107 加筆 20131109

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