salt and sugar


「多分、紫原が砂糖なら俺は塩だね。」


気まぐれにそんなことを言ってみたら、いつもと違うやけに真剣な君の顔。


いつもの気怠げな表情はどこへ行ったのやら。
全くもう、お菓子関係だと反応が分かりやすくて愛おしくて微笑ましい。
…どころか微笑んでしまう…と口角を少し持ち上げた赤司を、身を屈めた紫原が「赤ちん〜?」と覗き込む。


「ああ、ごめん、」


ちょっと、紫原が可愛かったから。


そうストレートに言うと、赤司の目の前の長身はふわぁぁっとこれも分かりやすく頬を真っ赤にして、屈めていた身をびくっと飛びのかせる。


その仕草にまた可愛い、と繰り返せば、聞こえる「う〜…///」という唸り声。
真っ赤になった左頬に自身の手を添え、滅多に見せない涙目になってこちらを見上げる幼顔。
気付けば背を丸めるのは紫色の癖だ。その普段の猫背の状態でも赤司の身長を軽く超えるのだけれど、赤司を窺うように見つめている彼の視線は何故だろういつでも上目遣いに見える。
計算されたあざとさはそこにはなくて、代わりに戸惑った幼児の見せる強がりに似たそれが浮かんでいる。


(赤ちんの言葉って、ドキドキするし。何でぇ???)


そう言外に、しかしストレートに伝えられる。


(だからいつも、こっちの方がドキドキしてしまうよ。)


彼の表情がその仕草が、紫原の持つもの有するもの彼の動作や仕草その一つ一つが、砂糖菓子のように甘く、いつだって赤司を包み込んでいく。


「何で、俺お砂糖なの?」


ふと、菫色の目で見上げられる。
上目でじぃっと見つめられる度にそんな印象を覚えてしまう…それはやはり錯覚でしかないのだけれど、


(飴玉みたい、だ…)


そう認識してしまえば眼前の長躯はもう大きな砂糖菓子のようにしか思えないから不思議だ。
紫色の飴細工。
柔らかなパステルカラーの四角いギモーヴ。
彩り豊かなマカロンの山の中からも、常に凛と異彩を放つ紫色。
きっとあっという間に舌の上で溶けるに違いない。
しゅふぁりと溶けゆくその感覚を早く味わいたくて、赤司は自分の唇を舐めた。


「何でだろ…甘いもの好きだからかな?いっつも、お菓子食べてるから?」


(…違う、な…)


(紫原…、)


おれにとっておまえは、あまいあまいおかしだからだよ。


その甘さはいつだって赤司の心を捉えて離さない。








あまりにもいつもお菓子のことばかり考えている君に。
いつだったか、つい子供じみた嫉妬を見せたことがある。


“紫原は本当に、菓子ばかりだな。”


そう呟いた、100%不服そうな表情の赤司に向かって、紫原はゆっくりと諭すように言った。
(…「何それ!お菓子に妬いちゃうとか…可愛い、あ、あぁあ赤ちん可愛い///」と真っ赤になっての前置きを経た上で)。


“俺、お菓子より、ずっとずっとずーっっっと、赤ちんが大好きだよ。”


“…そもそも、何かそれもーレベル違うし次元違うし。同じカテゴリでくくるのおかしくない?食べ物と、赤ちんとか…。”


おかしいかな…?


“ううん、…でも、うん…でも…。あ、そっか分かった−。今日の赤ちんさんは…、”


“…甘えんぼさんなんだね?”


…そんなことはない。
仮にそうだとしても、それは、お前、が、


“いーっつも甘やかすからだよね?良いよ赤ちん、俺、赤ちんのことならいつでも甘やかしてあげる。”


揶揄するように言う紫原。
極めて自分本位、あるいは赤司本位の発言に悪びれることはなく、うんうん俺って赤ちんには甘いし?と一人納得していた。
普段はやる気のなさだとか怠惰な振る舞いに覆い隠されている、元々の端整な顔立ちをこういうときにだけ全開にして。
訳知り顔で目を閉じ腕を組む、それだけの仕草でかっこいいと思ってしまう。


…少し、反則だ。








食べ物と赤司を同じカテゴリにいれるのはおかしい、と、彼は言った。


恐らく彼にとって赤司と食べ物は全くの別ジャンルなのだろう。しっかりとした区分けがそこにはあるのだと窺える。
赤司がお菓子に嫉妬するのも、いや、お菓子に限らず彼が興味を示すもの全て、ときにはバスケにさえ浅ましい羨望の念を禁じ得ないのも。
本当は、甘えなどではない。可愛らしく装った、構ってほしいアピールなどでは決してない。
紛れもない、それが赤司の本心なのだ。
本心から、彼が欲するもの全てに嫉妬する。一番でありたいと思う。
お菓子より、食べ物より、喉を潤し生命を支える水よりも、ああ、まさか、空気より。
それら全てに対してだって、自分が勝っていたい。
彼の中の、常に優先順位の一番にいたい。一番でありたい。
だが、紫原には生き続けて欲しいから。ずっと自分の傍にいて欲しいから。
生命に必要ないくつかだけを、しぶしぶ認めているだけだ。


おかしはいっぱいたべちゃだめなんだよー。


どうして?と。頭の中では分かっている。


ごはんがたべられなくなるからだよせいじゅうろうくん。


なんでなんで?どうして?


あまいあまいきみがそばにいるのに、ごはんなんておれはいらないよ。


「何で、赤ちんお塩なの?」


「…あ…。何でだろ…。」


なるほど。それは、考えていなかった。
紫原が塩なら、自分は?
ふと、思いついただけ。
本当にそれだけなんだけど。


何で?と繰り返し尋ねてくる言葉、気怠げな響きを奏でる拙い舌遣いに酔いながら(洋酒多めのパウンドケーキみたい)、答えを探すけれど中々見つからない。
赤司自身にもよく分からないその理由。紫原を砂糖だと表現するにあたって、多分適当につけてしまったに違いない。
回答を聞くは諦めて欲しいのだけれど、彼の上目遣いは未だ答えを待っている。
普段何事にも淡白に接する反動からか、興味を示したときの紫原はしつこい。


「毒だね。」


しばらくして、紫原が言う。
諦めたというより話題を少し脇道へと逸らし、赤司の答えを待っているのかもしれない。
どちらのことを指しているのか赤司には分からなかったが、両方とも、と彼は言う。
なるほどどちらも毒かもしれないそれが、互いにとても愛おしい。


お塩とお砂糖。
それは誘惑それは毒。


確かに一日の摂取量の目安は決められているし、高血圧や糖尿病の原因になる。
それを考えると夢も何もないけれど、今は夢の話はしていない。


酷く生々しい、そうこれは現実の話。


恋に落ちる感覚は、ダメだと思っても手を延ばしてしまう塩味や甘味、あるいは有依存性の混合調味料に似ている。
一度浸ってしまえば戻れない、自分を蝕んでいく甘い毒。
普段相当にストイックであるはずの自分が、それでもいいと思ってしまう。
身を捧げても良いと思ってしまう。
その種の毒性。結局は。









結局は、性質の悪い恋煩い。








salt and sugar


(しおとさとうのれんあいカテゴリ!)








ねえねえ赤ちん。


俺の中でね、イメージ的にね、赤ちんはお塩っていうかスパイスなんだし。
山葵でも山椒でも花椒でも良いけど、とにかくそういうぴりっとしたやつ。
ぴりっとして、食材の美味しさを引き出すやつ。


でもねでもね、俺がお砂糖なら、赤ちんはやっぱりお塩が良いなぁって思うし。


「だって、お塩とお砂糖って、仲良く並んでるもんね!」


お砂糖はそう言って、甘い甘い香りを纏い笑うのだ。


end.


塩の入ったコンテナと砂糖の入ったコンテナ、隣に並んでいませんか…?
雑貨屋さんとかではよく見るペアのコンテナ。アフタヌーンティーとかで。
それを見て思いついた小ネタでした。

2013.04.24



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