本当に緑間は役に立たない。

「赤ちん、」


「何だ?」


「この手はなぁに?」


先ほどから、紫原の右手を握って離さない、赤司の左手。


恥ずかしがりの赤司から手を握ってもらえるのは(それも部室とはいえ公衆の面前で!)はっきり言って、嬉しい。


だがしかし、これは…この状態は…


長く続くと…正直辛い。


練習が終わってかなり時間が経ったとはいえ、何せ自分はまだ着替え中。
ジャージでの下校は認められていないので帰るには制服に着替えなければならないのだけれど。これでは制服を着ることはおろか、着ているジャージを脱ぐことも体を拭くことも出来ない。
ましてやぎゅっと握られた手を、振りほどくなんて選択肢にない。
一瞬でもこの手を離してくれたら、即行で着替えてもう一度手を繋ぐのに。
そのままお家に連れて帰っちゃいたいくらいなのに(お手て繋いでる赤ちん、可愛い)。


「あのさ赤ちん、」


「何だ?」


「いやあの、このお手ては、どうしたらいいんだろーなー、なんてー…」


言えば、また無言の赤司。
先ほどから十分余り、このやり取りを繰り返している。


相変わらず仲が良いななんて呑気なことを言いながら、大体の部員はもう帰ってしまった。
黒子と青峰はまだ練習を続けているのだろうけれどその姿は見えないし、とうとう部室に残っているのは自分と赤司と、緑間の3人だけになってしまった。


助けを求め縋るような視線を緑間に送るけれど、彼はつれなく頭を横に振るばかりだ。


「何で…あのー…ちょっと聞くけどそこのみどちんさん…何で赤ちんはこう、甘えんぼさんなのかな…?」


言えば、知るかと一蹴されるかと思ったが。
呆れかえった顔をしながらではあるが意外にもふわりと告げられる一言、と、いつもの語尾。
そうして撫でたピンク色のリストバンドは、今日の彼のラッキーアイテムだろうか。


そのみどちん、曰く、


「塵なのだよ…。」


「はい!!??」

いやいや何それ全然分かんない。
聞き返そうとしたときにはもう彼はくるりと背を向け部室を去って行って。
後には自分と、相変わらず手を離してくれない(嬉しいんだけど!すごくすっごくすっっっごく嬉しいんだけど!!!)赤司の2人が取り残される。


相変わらずその件に関しては無言のままの赤司の顔を窺う。
ポーカーフェイスの得意な彼の表情からは、何を言いたいのか精確に読み取るのは不可能なようにも思えるのだが。


…やはり自分にはハードルが高すぎるようで。
大きな猫目が何を言いたいのか、何を求めているのかが未ださっぱり分からない。


だけど、汗ばんだ手が熱く少しだけ手を離して(1ミリくらい?)またすぐつなぎ直したとき。
手が離れた一瞬、視界の端っこに映り込んだどこか不安そうな赤司の顔。
捨てられた動物のように頼りなげで、今にも泣き出しそうなその表情を見たとき。


何か、着替えられないとか帰れないとか。
そういう細かいことはもうどうでも良いかなってちょっと思った。


(別に黒ちんと峰ちんもまだ残ってっし、)


(赤ちんと、ぎゅってしてたいし、)


(赤ちんに…悲しそうな顔なんか…させたくないし…)


自分が傍にいることで、自分の手を握っていることで、赤司が少しでも落ち着くのならそれでいい。


彼の気持ちが落ち着くまで。








後日談。

あのときの赤ちんは、嫉妬してたんだって!(何てことだし!赤ちん可愛すぎる!)


俺が色んな人からお菓子もらったり、嬉しそうにしてんの見たり(いや、それはさぁ…)。
クラスの友達と話して、笑ったりしてんの見たり(同じクラスだもん…)。
赤ちんのクラスの女の子が、俺のこと話してんの聞いたり(…ん?そんなことあったの?)。


そういうこと、今まで積もり積もった嫌なこと、一つ一つは小さなもやもやしたこと。
そういうのが一気に溢れちゃった結果ああしちゃったんだって。
なんて可愛いんだろ!赤ちんってば天使さん!


あ、それで、みどちんは赤ちんから色々相談されてたから、この前の理由がそういう嫉妬だって知ってたんだって。
塵も積もれば…ってことだったらしい。…だからって、塵って…!
もっと分かりやすく教えてくれても良かったのにー…。


(本っ当に、みどちんって役に立たない!)


って、ちょっと思ったけど。


赤ちんの可愛い一面見れたし。良っかー。


end.

緑間ごめん(笑)。
イイオトコだよ!

2013.04.07


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