その先の期待感

「多分さぁ、ポッキーの柄のとこが好きなんて、赤ちんくらいだと思うよ。」


「そうかな。」


凡人とは違った感性で生きている、と言われる赤司だけれど、紫原は彼のことを特別そんな風に思ったことはない。
…が、ポッキーの柄の部分が好きだと言うところは、正直すごく変わっていると思う。
紫原にとって、あのチョコレート菓子の魅力はどう考えてもチョコのかかった部分だ。
柄の部分は″手が汚れないように配慮されている部位″としか映らないし、そもそもあんまり甘くないし美味しくない。
オレオのクッキーだけが好き、という人なら結構いるしそれならまだ何となく納得がいく。
だがポッキーの柄…というか中のビスケットの部分は、後からかけられるチョコの甘さを考慮して元々味を抑えているのだろう。甘味も香ばしさも控えめ過ぎる。
あんなに味気がないビスケットだけがもし売っていたとしても、まず間違いなく買うことはないと思う。


「赤ちんって、時々不思議。」


赤司の好きだという部分だし…と何とか食べ方に苦労しつつそこだけ食べてはみるのだけれど、やはり紫原にとって魅力的なそれではなかった。


「…俺はさ、」


赤司は言う。


大きな猫目の印象的な顔立ちは、いつも落ち着いた表情を湛えている。
特にどこも見ていないような顔をして、その実全てを見通す視線。
見慣れているはずなのに、時々ぞくっとしてしまう。


「チョコのかかった部分も好きだよ。」


「ん〜〜〜???」


甘いものは好きだけれどチョコが食べられないとか、餡が苦手だとかはよく聞く(それすら紫原には理解できないが)。
もちろん甘さ控えめのお菓子の方が好きという人もいるだろう。
オレオのクッキー派の人にしたってそうだ。
彼らには、中身のクリームが甘すぎるのだという。


(でも…”チョコのかかった部分も好き”なのに、あの”柄のとこが好き”なの???)


そんな人、いるんだろうか???









いよいよ混乱した紫原の頭上で、疑問符が陽気にダンスを踊る姿が赤司の目に浮かぶ。
訳が分からなくなってきた様子の彼にも分かるように、なるだけ分かりやすい表現をと思うのだが。
しかしながら赤司自身にもよく分からないこの感覚を、あまつさえ誰かに伝えることはとても難しい。


悩んだ末ふと妙案を思いついたか、赤司は徐に両手を広げ紫原、と彼の名を呼んだ。


訝しがることもなく、改めて赤司を正面(というか上)から一直線に見つめ返す、幼く素直な注意力。
恵まれ過ぎた身長と申し分なくついた筋肉という成人男性のように完成された体格(身長はまだ伸びているが)と、それに見合う端整な顔立ち…切れ長の目、それが湛える深い紫陽花色の瞳、すっと通った鼻筋に大きな口とこれもまた成人さながら完成された面持ちを湛えながら、事あるごとにきょと、と幼い表情を覗かせる。
大人びた外見の奥に眠る彼の精神から、生じる計算のないあどけなさ。
それが赤司は特に好きだった。


「?」


「俺がこうしたら、どうなる?」


身長差は優に30 cmとちょっと。日々変動するその差は35 cmを境に前後している。
成長期の自分たち故今は追いかけっこを繰り返しているが、そのうちレースは追い上げ一方になるだろうと赤司は思った。
既に200 cmという驚異的な数値を超えた彼の成長は、遅かれ早かれそろそろ止まるはずだ。
それから先自分はどれほど追い上げることが出来るだろう。
恐らく抜くことも並ぶこともないだろうが、もしかしたら自身の身長ももうすぐ止まるのかもしれない。
赤司が紫原にその大きな体に手を回せば、抱きしめるというより抱きつくという表現がよく似合う2人の一体系が出来上がる。
いつもは紫原が赤司を覆い抱くことが多いのでこれはレアなパターンだ。


「…」


(どうって、)


突如として赤司に抱きつかれ、面食らいながらも顔が頬がかぁっと熱くなるのが紫原自身にも分かる(これが嬉しくないわけがない!)。
だが、どうなると言われた手前いつまでも余韻に浸っているわけにはいかないだろう。
とりあえずどうにかしなくては。その先の行動に移らなければならない。
赤司が何を意図しているかは分からないのだけれど、だが紫原としては当然この次は、


「…こう、する…。」


なる、ではなくて、する。赤司にとっては”こう、なる”なのだろう。
紫原が”当然"そうするのだから赤司は”必然的に”そうされることになる。
彼得もとい据え膳さながら、赤司から抱きついてきたとあればそれを逃す手はないのだ。
向かい合って背を丸め、上から覆いかぶさるように優しく包む。
これで正解だろうか。


「…だろうな…。」


(多分、そういうことだよ。)


満足そうに微笑んでそう告げた。
やはり言葉不足過ぎて、彼には伝わらないのだろうけれど。







その先の期待感


ポッキーのチョコのない部分。


その上には必ず、チョコのかかった部分があるという。


end.



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