ようじのこえおとなのことばこどものたいおん

昼下がり、道行く幼児が母にすがって泣いている。


「何かさー、ああやってヤだヤだーって泣き叫んでんのは別としてさー…、」


しばらくそのやりとりをじっと見ていた紫原がぽつり呟いた。


「ん?」


「たまにさー、ごめんなさいごめんなさいとか、すいませんすいませんって謝ってる子供がいるじゃん。親っぽい人に追い縋ってさ。それか引っ張られてさ。」


「うん…、(親っぽいって、親だろ…多分)」


「そーゆーの見るとさ、何かすげー…深刻な家庭環境で暮らしてんのかなーって、思うよね…。何か複雑…。」


目前の紫原は眉根を寄せて、未だ泣き止まない幼児を見つめていた。








「じゃあさ、紫原、」


「んー?」


「申し訳ありません、って幼児が泣いてたら、どう思う?」


「…」


言えば、案の定黙ってしまった長身が。
自分のため必死に頭を回転させているだろうことを想像すると微笑ましい。


幼い日、確かに自分はそう言って泣き喚いて目の前の絶対的な何かにすがった。
何が理由かは今となっては定かではない。
忘れようと思ったことも実はないが、思い出す気もさらさらない。


が、その後何をされたかということは意外にも鮮明に覚えているものだ。


「ねー赤ちん…、それって泣くとこ?…それとも小っちゃいときからそんな口調のおませさんだったの〜可愛い〜って笑うとこ?」


「どっちでも。」


変わりはないさ。
もう過ぎたことだから。


言えば再びの沈黙。


しばしう〜んと思案気だったが。


ふいに″赤ちん、″と座ったまま両の手を広げて見せる紫原。


「分かった赤ちん。…赤ちん、よく頑張りました。」


「…」


今まで誰にも言ったことはなかったけど。
それでも、予想外の。
これ、は…。
赤司の思いもしなかった、初めての反応、だ。








で、何?と目で問えば、にこーっと彼独特の笑顔を浮かべて曰く。


「小っちゃいときからたくさんたくさんいやなこと、めんどーなこと頑張った赤ちんに、ごほーび。」


おいで、と導かれ紫原の間に座る。


猫背気味な背もたれが温かく、ついうつらうつらしてしまいそうになるのをどうにか堪えた。


「…ご褒美って、」


「うん、」


「これは、俺得じゃなくて、お前得。」


「うん。いーの。」








いつしか幼児の泣く声も聞こえなくなり。


再び襲ってきた微睡の誘惑。


(ご褒美だから、…良いだろ?)


(とーぜんだし。おやすみ赤ちん。ねんねだよー。)


あやすような声。


大きな体。


そしてそれに似合わない、少し高めの子供体温。


俺を心底安心させる、温かさ。


end.


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