お疲れさまと動画を添付

(※ "多分、そういうこと"の後日談)








紫原が、スマホの画面を見て静止している。


「室ちん…」


「ん?どうした?」


「…どうしよう、赤ちんからデコメ来た…(何コレかわいいの///)」


「へえ!赤司くんってそういうのしなさそうに見えるのに、意外だね(そもそもそういうのマメに送る男子って少ないし)」←室ちんはする人。


薄桃色の背景の画面を紫原の後ろから覗き込むと、そこには可愛い猫がくつろぐイラストと、最後に入った”大好き”のライン。
あまり本文は読んではいけないなとは思ったが、ちらり読めてしまった範囲に、作り方をチームメイトに教わったのだと書いてある。


氷室は、この前の一件が無事落ち着いたことにほっと胸を撫で下ろした。
(本当は服も脱がそうと思ってたんだけどな。)
本来あのテの趣向は自分に言わせれば、裸にリボンでないとインパクトがない。
が、それは激しい抵抗にあって残念ながら止めた。
それでもまあ上手くいったなら良かった。無事誤解が解け仲直り出来たのならよしとする。


「どうしよ…俺、何も返せねー…」


紫原がメール下手(口も下手だし電話も苦手だが)なのを氷室は知っている。
元々手の大きさゆえ、細かい操作が苦手なのだ。
彼からのメールはいつも必要最低限で、きっと予測変換で出しているんだろう決まった絵文字がつくくらい。


「アツ…」


作り方教えるから、一度くらいはやってみる?テンプレートも少しなら本体に内蔵されてるはずだし…と、氷室は言いかけて、やめる。


(…そうだな…。)


…きっとこっちの方が分かりやすい。


氷室は取り出した自分のスマホをタップして、未だ甘い混乱の真っ只中の紫原の方へと翳した。








その日の夜、赤司のスマホに見たことのないアドレスから、きれいなデコレーションメールが届いた。


「?」


朝送った紫原へのメールは、早々に返事が来ていたはずだ。
いつもは短い文面なのに、しきりに普通のメールしか返せないことを詫びていて、返って申し訳なく思っていた。
たまたまデコメの使い方を実渕に教わったので、つい送ってみてしまったのだけれど。
だから気にしないで、と返しておいた。


不審に思って開けてみると、白背景、上下に菫色の、シャンデリアとレース柄のキラキラのラインきれいなデコレーション。
本文も短く菫色で綴られている。


「陽泉高校の氷室です。いきなりメールして驚かせたらごめんね。


アツシにデコメの作り方を教えようかと思ったんだけど、こっちの方が良いかと思って。」


見ると動画が添付されていて、再生してみると、どうやら盗撮されたらしい紫原が映っている。


スマホの画面を凝視して、微動だにせず、唇だけが震えるように動いている。
恐らく画面に集中しすぎて、至近距離で撮られていることに気付かなかったのだろう。


「…」


音量を上げていくと、彼が何かつぶやいているのが分かった。
それは最大音量でも聞き取れるか聞き取れないかというくらいの大きさだったのだが。


(…どーしよ、まじ可愛い赤ちん…だいすき、とか、いきなりそれねーし反則だし…。
ていうかどうしよ室ちん俺何もできないんだけど、あ、この猫動くし、…何か赤ちんみたい…わ///。
ねえねえどうしたら良いのコレていうかどうしたら良いのオレやばいむりだけど会いたい。
大好き赤ちん…赤ちん…ぇ、コレどうしたらいーの赤ちん、…わ、ゎ、///)


「赤司くんへ。ウィンターカップお疲れさま。See you!」


最後にこそっと入っていた声は氷室のものだろうか。


赤司は、しばらく動画の中の紫原のように画面を凝視していたが。


やがてぼんっと音を立て、部屋の中で一人、耳の先まで真っ赤になった。


end.



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