NOVEL | ナノ

 映画の内容は大体記憶にない

集合写真はいつも後ろ。
ぴょこって一人飛び出てる。

むらさきばら、で、せいぜいマ行の終わりなんだけどいつも都合よく最後列。
今思えば、それってクラス編成のときにきっと配慮されてたんだね。

俺の後ろの奴とか絶対隠れちゃうし、クラス写真なのに出席番号順替えるのもおかしいし。
きっと、俺に対する配慮なんだと思う。…うんそれ実際正解だったかもしんない?

いっつも後ろに替えられてたら、多分結構傷ついたと思う。
もう色んなこと慣れてきたけど、…うん、でも一応、嫌なもんは嫌だよ。

教室の席順がいつも後ろになるのは仕方ないって諦めてる(皆が黒板見えないと困るしね)けど、それは目の悪い奴も一緒だから良い。
わざわざ前の席行かなきゃいけなかったりする奴もいるし、それはそれなりに受容出来てる。

…学校生活って、実は色々配慮されてるんだよね。
気付かない奴は多いけど、先生色々考えてんだよ。

だから、学校は結構楽。
もちろん部活が一番過ごしやすいけど。

外では、不便なことばっかだ





つり革届かなくて〜って。クラスの女の子は良いなぁって目で俺見てくるけど、いや嘘ねえねえそれマジで?
いやいやちょっと考えろし、この身長だよどう考えてもつり革持てない。棒のとこだよ。
夏場の冷えた車内とか、金属マジで冷たいんだよ。冷房なんか直撃だよ。

ガキは素直に奇異の目で見るし、すれ違っただけで悲鳴上げられる。

(俺は化け物かっての)。

あ、そう言われたこと普通にあるよ。両手じゃ足りないくらいです。

プールの底、足つかなかったこともないから、普通程度の波のプールじゃつまんない。
競泳用のやや深いプールに飛び込み用の底深プール、初めて入ったとき感動したし。
すげー楽しいね、あれ、浮くの。





…とにかく、不便なことばっかなんだ。家と学校以外では。

…そんで、まさに今、そんな状況。





黄瀬ちんがどうしてもみんなでって言うから(チケットたくさんもらったって)、渋々来てみた映画館。
昔から苦手なんだよね。大きな音も、座席の狭さも。

どんなに足が長くても〜って…。足、長い方が逆に前の席蹴れねーから。
2時間あのまま身動きできない。正直すげー窮屈なんだよ。

それに、そうそう座席の位置。
いつも一番後ろの席、に、行くじゃん。そこはやっぱ行かなきゃじゃん。

選んで予約で買えたりするけど、そこまでするほど好きじゃないから、普段映画なんて見ないんだけど…。
ねえねえ黄瀬ちん、そこ…真ん中あたりで良い席なんだろうけど、俺がいちゃいけないとこだよ。

ミドチンがいたらちょっと分かってくれたかも知んないな、でも今日都合悪くて来れなかった。
黄瀬ちんって実は結構鈍い人で、多分色々分かってない。

まああれこれ言うのもなんだし(せっかく皆で楽しくしてんのに…)、上映前にトイレって外に出た。
そのまま外にいても良かったけど、せっかくだし上映寸前に戻って一番後ろの席に座る。
そこっていつも大体空いてて、俺が座ってても問題ないから。
で、いつもならポップコーンとアイス食べて時間潰すんだけど。

(いつも内容、あんま見てないかも…。)





一番後ろで、良いけどさ。何かもやもやするんだし。





今日もまた無意味に過ぎる2時間だろうな…そんなことを考えてたら、CMが開始してすぐに俺の横に誰かが座った。

あ、マズい今日は誰かいたのかなって思ったら、聞き慣れた声で、

「紫原、」

って。

あれ???何で赤ちんこっちにいんの???

「あ、赤ちん???何で…皆、下に、」

後ろに行くなんて一言も言わなかったのに…。

不思議で不思議でたまらない。そんな俺に赤ちんは笑って言う。

「俺を誰だと思ってるんだ?」

お見通しだよ。

「赤ちん…。」

「…黄瀬にしたって、悪気はなかっただろうけどね。あの席、良い席だし。」

でも多分紫原は、ここに来るだろうと思ってた。
赤ちんはそう言って、にこって笑った。
ちょうど強く光ったシーンで、きれいな顔がはっきり見えた。

…嬉しかったよ。俺は嬉しかった。だって赤ちんのお隣だもん。
これ以上の特等席なんてないじゃん。

…でもさ、赤ちんは…良いの?前で見なくていいの?
だってせっかく、良い席なんだよ。
こんな後ろじゃ、よく見えないのに…。

でも赤ちんは、笑ってた。

「楽しいよ、」

紫原、





「紫原と一緒なら、楽しい。」





多分そのとき俺はすっごい間抜けな表情をしてて。

必死に、涙とか何か色々、堪えちゃってた(映画館、暗くて良かったって初めて思った。)

「はいポップコーン。席に忘れてったろ?」

赤ちんが差し出す。そう言えば忘れてた、ダブルのキャラメルポップコーン(もう半分は塩味で)。

「売店でアイスも買ってきたよ。イチゴで良かった?」

「うん…、」

うん。

「赤ちん、」

あ、

「…そのお礼は、黄瀬に言おう。…俺も、嬉しい、」

(こんな、傍に、ずっと、紫原、横で、えっと、…だから)

「…あれ???///(だから、あ…、…あれ???)」

「…赤ちん…///」

(赤ちん…混乱してる…///?…え、何で…???でも可愛い…///)

暗い中でも、たまに強い光が照らすだけの映画館の中でも。
赤ちんが顔真っ赤にしてんのが、分かった。

「うん…、」

俺も多分真っ赤になって。

君の隣で、初めてまともに映画を見れた。
(…内容はやっぱあんまり記憶に残ってないんだけど。)

でも、





赤ちんと一緒なら、楽しい。





end.

13.05.13


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