思春期♂♂♀ [2/2]
キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴って、呼び出された屋上へ向かう。
憧れのキミは、既に居た。
もちろん今日は、告白現場なんていう甘いものじゃない。
『突然呼び出してごめんね。』
「いや……えーっと、その……」
『呼び出した理由、わかるよね。』
オイラから外の世界へとかわされた視線は、意味もなく眼下に広がる営みを眺めている。
そんなキミに対し、オイラは静かに目を閉じた。
オイラの妄想でしかない未来予想図が、このとき一挙に脳内を駆けずり回っていた。
―『美術好きなんだ?へぇ〜上手だねぇ!』―
―『前髪切ったら?目に入ったら大変だし……でも勿体ないか。せっかく長くて綺麗なのにね!』―
あぁ、オイラ……
―『アタシもだよ!アタシも好きなの、あの彫刻家!』―
―『美大目指してるんだ、いいなぁ夢があって。アタシ、デイダラが夢叶えるとこ見てみたい…!』―
キミとしてない会話が、まだまだこんなに出てくるんだな。
―『アタシも、好き……デイダラが、好き……!』―
『気持ち悪い。』
ズバリ。だが現実では、躊躇いもなく突き放された。
『漫画の世界じゃあるまいし。そういう男の子同士とかで実際にやるの、おかしいよ。』
「っ……!!オイラはそんなんじゃ、」
『しかも受験が控えてる大事な時期なのに……もうサソリくんをたぶらかすのはやめて。万が一にも彼が志望校落ちちゃったらどうするの?』
「そ、そんなんオイラにだって受験が、」
『だったら、』
キミは一旦言葉を区切ると、ようやくその目でオイラを見た。
今だってキミの眼差しは、オイラのことなんかこれっぽっちも考えちゃいない。なのに、
ドクンッ……
(あぁ……オイラも馬鹿だな、うん……。)
視線がぶつかった、ただそれだけで。
キミに恋するオイラの心臓は平気で高鳴る。
―「ねぇねぇ、nameはどんな男子がタイプなの〜?」―
―『えーアタシ?うーん、そうだなぁ……。』―
それが例え嫌悪的な目で見られたって……
―『ただ一途にアタシのこと愛してくれる人かなぁ……。』―
オイラはキミに恋してる。
オイラはやっぱりキミが好きなんだ。
『もうサソリくんから離れて。今後彼に近寄らないって、約束して。』
「…………。」
けど、ほらな。キミの答えははじめから決まってる。
何せキミは旦那が好きで、旦那はオイラが、オイラはキミが……あぁ、なんて綺麗に矛盾してるんだろう。
―「そんな一方通行で、まかり通るはずがないだろ……!?」―
そう、まさにこれが一方通行。
全てが全てに行き止まり、全部が全部違うほうに向いている。
―――終わらせてやるよ。
オイラが一番に、この三角関係を終わらせる。
「オイラが旦那から離れたらよ、うん……その後のオイラはどこに向かえばいい……?」
そんな強気な意思に反して、今にも崩れそうなくらい、震えた。
オイラが旦那から離れれば、キミはオイラを許してくれる?
―『やり直そうよ、デイダラ。今日からアタシたち、友達だね…!』―
オイラが旦那にさえ絡まなくなれば、キミの隣に居てもいいのか……?
『アタシね。合格したら告白しようと思ってるの。』
そんなオイラとは違い、キミの言葉はハキハキしていた。
さっきから嫌悪でしかオイラを見ない瞳が、より一層濃い色を写す。
それはもはや、オイラに対する敵意だった。
『だからもう二度と、アタシたちの前に顔を出さないで。』
―――あぁ、アタシ“たち”か……そうだよな、普通……。
オイラがどうなろうと、どう生きようと。
オイラの人生は、キミには関係ないんだもんな、うん。
「キミって嘘つきなんだな、うん……。」
『……はぁ?』
あの日の言葉は嘘だった。
―『ただ一途にアタシのこと愛してくれる人かなぁ……。』―
ここでオイラが告白しても、きっとキミは振り向かない。
結局キミは誰かに“想われたい”んじゃなく。
自分の一方通行でしかない“好き”って感情を、叶えたいだけだったから。
『何それ……変な言いがかりつけないでよ!アタシもう行くから!』
「叶うといいな、旦那と。」
『変な同情もやめて!思ってもいないこと口にして……もういいっ!』
それを最後にキミは、怒った素振りで屋上を後にする。
バタンと重たい扉が完全に閉まりきったのを確認してから、オイラは泣いた。
人目につかない安堵感に包まれ、キミへと抱いた淡い感情に別れを告げていた。
---------------
キーンコーンカーンコーン……
桜が舞い、春風が舞い。周りの奴等が笑顔を咲かせて卒業する中。
美大の受験に落ちたオイラは、そのまま滑り止めで受かった普通科の大学に進学した。
もう二度と、旦那とnameを見ることはなかった。
2016/6/25
---------------
参考資料:
『思春期少年少女』/GUMI Whisper
prev | next