26.次元の狭間へ
ワープ装置から辿り着いた先は、なんともいえない気味の悪い、不思議な空間であった。
青紫の様な壁に、地面は透明の様で下が透けている。
透けた地面の先は、黒く星の様なものが点々と光っている。
「不気味な所だね…」
素直に、ヒロインは周りを見渡して言った。
「…ああ。ここは、魔界と人間界である地上世界との狭間にある。魔王はここから地上世界へと出て行き、支配をしようとしている」
「…絶対に、止めなきゃだね」
「ああ。…お前と俺なら、必ず出来る。行こう、ヒロイン」
「うん…!」
故郷の村を出発し、赤龍との出会いを果たしたのが、本当につい最近の様であった。
ヒロインは、とうとうこんな所まで来ていたのであった。
「キシャー!」
「魔王様の邪魔はさせん!」
ヒロインと赤龍が透明の地面を進むと、前から大勢の魔物達が目を血走らせやって来ていた。
「うわ…凄い数…」
暗黒の城より倍の数の魔物が、ヒロインと赤龍に襲いかかろうとしていた。
「…邪魔な雑魚が、炎の波!!」
赤龍が前に手を出し唱えると、青龍に放った同じ炎の波が現れ、魔物達を飲み込んでいく。
「ギギャア!!」
「魔王様ー!!」
あれだけいた魔物は、一気に蹴散らされ姿を消していた。
「す、凄い…」
只々、ヒロインは驚き絶句するしかない。
赤龍は、やはり元は火属性、火の魔法の方が強さを持ち彼に力を与えていた。
「俺の魔法で蹴散らしながら行くぞ、ヒロイン」
「う、うん…」
そう返事はしたものの、赤龍にだけ任せっきりは嫌であった。
(私も戦えるもの…。青龍のお陰で強くなってる…)
赤龍の後に続き、ヒロインは大剣を背から取り出し進む。
奥へと進んでいくと、次の魔物達が現れ始めた。
「ここから先には進ません!」
魔物達は固まり、魔物の壁の様なものを作っていた。
「喚くな、雑魚。…炎の…」
「はーっ!!」
赤龍が唱え終わる前に、ヒロインは剣を持ち、魔物の壁に突っ込んでいった。
「なっ…ヒロイン!」
赤龍が驚いている間に、ヒロインは魔物達を斬り裂き、壁を壊していく。
「ギャア!」
「邪魔よ!退きなさい!」
「ギギィ!」
ヒロインが振りかざす度に魔物は倒れていき、力のついたヒロインは、あっという間に魔物達を全滅させていた。
「甘く見ないでよね」
ヒロインは大剣を背に仕舞いながら、そう言った。
「…おい、ヒロイン!」
そんなヒロインの肩を、赤龍が後ろからガシッと掴む。
「無茶をするな!俺に任せろと言っただろう?!」
「だって、赤龍にだけ頑張らせるなんて嫌だよ。それに…前の赤龍なら、私に魔物倒せって言ってたよ?」
赤龍と旅を始めたばかりの頃、彼は森で立ち塞ぐ魔物をヒロインに倒せ、と命令していた。
そして、いざ倒してみれば遅すぎだと意見していた。
「…今の俺は前の俺とは違う。お前にそんな事を言ったりはしない」
赤龍はそう答えると、ヒロインの肩を掴んだままその手を前に回し、首の所で組む。
「…ヒロイン、俺はお前が大事だ。無茶はするな…良いな?」
赤龍の熱い吐息がかかり、耳元で囁かれると、ヒロインの身体がビクンと跳ねる。
「っ…。うん…わ、かった…」
赤龍に抱き締められ囁かれては、観念するしかない。
ヒロインは首を縦に振り、答えを言った。
「ふ…それで良い、ヒロインは良い子だな…」
赤龍はふっと笑うと、ヒロインの耳朶に舌を這わせチロッと舐め上げる。
「ひゃあっ!」
思わず、ヒロインは声を上げてしまっていた。
「…可愛い声だ。…もっと、お前を苛めたくなる」
赤龍は、首に回した両手を解き、下にあるヒロインの自慢の大きな乳房を服の上から掴んでいた。
「や…赤龍…っ」
「お前は胸が感じるんだろう…?」
耳朶を舐めながら、赤龍の両手は乳房を優しくゆっくりと揉み始めていた。
「ぁ、ん…っ!」
大好きな赤龍に触れられ、ヒロインは直ぐに感じてしまう。
「ヒロイン…」
赤龍の声が、ヒロインの官能の渦を刺激していく。
このまま抱かれてしまいたい、ヒロインはそう思い始めていた。
「ギギィーッ!!」
愛し合おうとする二人の前に、魔物達が再び現れていた。
「…邪魔な奴等が」
ヒロインを解放すると、赤龍は火柱の魔法を放ち、魔物を倒す。
「この続きは魔王を倒してからだな…」
「っ…う、ん…」
赤龍の言葉に反応してしまい、ヒロインは頬を染めて頷く。
(魔物が現れなかったら私…こんな魔王の住処みたいな所でも抱かれたいって…最低。でも…赤龍に1日も早く、抱かれたい…)
赤龍との時間を過ごす為には、一刻も早く魔王を倒さなければならない。
(気を引き締めなきゃ、魔王を倒してお母さん達の仇を取るんだから…)
ヒロインは自分で気合いを入れ直すと、赤龍と共に前へと歩き出す。
魔物を倒しながら奥へと大分来た頃、広けた部屋の様な空間へと辿り着いていた。
「…ヒロイン、気をつけろ」
赤龍は何かを察知し、杖を構える。
ヒロインもその邪悪な気配を感じ、大剣をぎゅっと握る。
二人の前に黒い光が現れ、中からはフードの様なものを被り、目を光らせた魔物が姿を見せていた。
その姿に、ヒロインは見覚えがあった。
「あんたはあの時の…!」
青龍にさらわれ目を覚ました時、ヒロインに食事を運び、言い争いをした魔物であった。
「たかが人間風情の女が…。よくも我々の計画を邪魔し、青龍様をたぶらかしてくれたな」
フードの魔物の目がギラリと、ヒロインを睨みつける。
「貴様さえ現れなければ、青龍様が自ら魔王様を復活させたものを!」
「青龍はそんな事もうしないわ!あんた達が青龍を操り、無理やり魔王を復活させたんじゃない!」
「ああそうだ。人間を愛する様な青龍様になってしまったからな…あの方がそうした。くくく…女、そして赤龍様、これ以上先には進ません!」
フードの魔物がそう叫ぶと、彼はフードを取り姿を露わにさせた。
その姿はまるで死神の様で、血の気のない青白い表情をした魔物であった。
「死ねー!!」
魔物は鎌の様な武器を持ち、ヒロインに真っ先に向かっていた。
「あんたになんかやられたりしない!!」
鎌を大剣で受け止め、ヒロインはキッと魔物を強く見据える。
「あんたも魔王も…必ず倒すわ!」
「口の減らん人間がー!」
「俺は人間ではない」
赤龍が静かにそう言い、魔物の後ろに立つと、手をスッと前へと出す。
「貴様の役目は終わりだ。…火柱!」
赤龍が火柱の魔法を唱えると、魔物の身体が炎に包まれていく。
「あ、熱いー!!ぐおぉ…っ、赤龍様よくも…よくもぉぉ!!」
炎に包まれ、魔物は叫び声を上げる。
ヒロインは留めを刺そうと、大剣を大きく振り上げる。
「これで終わりよ!!」
ヒロインの剣が、魔物に当たる瞬間であった。
「クックック…」
「!」
フードの魔物と一緒に、あの魔王の配下である骸骨の魔物の姿が一瞬映り込んでいた。
そして、確かにヒロインは手応えを感じ、剣を振り下ろしていた。
「ギャアァァ!ま…魔王様…グガガ…!!」
ヒロインの剣で留めを刺され、フードの魔物は悲鳴と共にスーッと消えていった。
「…あ、う…っ!」
「!ヒロイン?!」
魔物が消えた瞬間、ヒロインは頭がズキンと波打つ様に痛み、その場にしゃがみ込んでしまう。
「ヒロインどうした?!」
「あ、頭が…痛い…っ、あ、う…っ」
赤龍に支えられるが、ヒロインの頭の痛みは治らない。
まるで、何かに飲み込まれていく様な、変な感覚に包まれている。
「あ…赤龍…」
「ヒロイン!」
赤龍に手を握って貰った時、ヒロインの意識は一瞬飛び、そして、直ぐに取り戻した。
「……」
頭の痛みは一瞬で消え、ヒロインは立ち上がった。
「…ヒロイン、大丈夫か?」
赤龍が声を掛けると、ヒロインは剣を構えていた。
「ヒロイン…。く…っ?!」
次の瞬間、赤龍の腕の辺りのローブが破け、血が流れていた。
「…魔王様の敵は、許さない」
生気のない瞳で、ヒロインは先に血の付いた剣を持ち、赤龍を見つめていた。
「く…ヒロイン…お前もか…!」
赤龍は腕を押さえ、ヒロインであるがヒロインではない彼女を、悔しそうに見つめた。
青龍と同じ様に、ヒロインは魔王の配下によって心を操られてしまっていたー。
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