16.二人の美青年


氷の洞窟を抜けヒロインと赤龍は町には戻らず、そのまま進み、雪原にあった空き家に身を寄せた。
赤龍の魔法で火を灯すと、家中暖かくなっていた。

「一通り、俺達は世界を回った」

椅子に座り、赤龍が話す。

「砂漠、港、町、雪、世界の殆どを旅し、平和を取り戻してきた」
「うん、そうだね。なんか、長かった様な短い様な…」
「ヒロイン、お前はこれからどうする?」
「え?」

赤龍は、相向かいに座るヒロインをじっと見て言う。

「俺はこれから青龍の住む暗黒の城へ行き、奴を倒す。お前はどうする?故郷へ帰るか?」
「そんな、帰らない!私は…赤龍の旅に付いていきたい。それに…世界を平和にするってあの女の人と約束したから。だから、赤龍と一緒に行く。下僕を解雇されたって付いて行くわ」

ヒロインの力強い答えに、赤龍はふっと笑う。

「下僕、か。氷の洞窟でも言ったが、俺は下僕としてのお前を解雇する」
「え…そ、そんな…でも、解雇されても付いて行くから!」
「少し黙って聞け。…下僕としてではなく、俺の女として、正式に一緒に来て貰うと言っている」
「!お、女…」

赤龍のその単語を聞いた途端、ヒロインの顔が一瞬で真っ赤に染まっていた。
それを見た赤龍はまた笑うと、椅子から立ち上がりヒロインの隣まで歩み寄る。

「ヒロイン」

赤龍は、ヒロインの右手を持ち唇の所へ寄せた。

「俺はお前に惹かれている。…お前は何時でも、俺の為に良くやってくれた。最初はただの煩い女だったが、今は俺にとって大事な存在だ」
「!赤龍…」
「ヒロイン、俺はお前を…」
「ご、ごめん!ちょっと暑くなっちゃったから、外行ってくるね!」

ヒロインは思わず立ち上がり、家の外へと出て行く。

「はあ…っ、う、嘘みたい…。赤龍が私の事を…」

ヒロインは、目の前で言われた事が信じられず、雪の降る外、1人熱くなった頬をつねっていた。

「い、痛い!夢じゃないんだ…。本当に…赤龍が私の事を…」

自分の事を嫌いだったら、洞窟でした様な事をしないだろう。
それに、キスだってしない。

「だって…あの赤龍が…。ずっと私の事下僕とか言ってて…魔物と戦わせてばかりだったのに。でも…本当に私の事を…っ。どうしよう!嬉しすぎて…っ」

自分で話していて興奮してしまい、ヒロインは目に涙を浮かべていた。

「…嬉しい。本当に…嬉しい。赤龍と両想いになれたなんて…っ。嬉しいーっ!!」

思わず、ヒロインはガッツポーズをして喜びを噛み締めた。
それほど、彼女にとって赤龍と想いが通じあった事は大きい。

「ふふ…顔のニヤニヤ止まらない…。よし、けどこれで赤龍の言葉の続き、ちゃんと聞ける」

気持ちを落ち着かせ、ヒロインは顔をシャキッとさせる。
そして、再び家の中に戻ろうとした時だった。

「う…」
「え?」

赤龍の声ではない、呻き声の様なものが聞こえた。

「誰?誰かいるの?」

ヒロインは、雪の中をザク、ザクっと歩いていく。
そして、雪の中に仰向けに倒れている姿を捉えた。

「!青龍?!」

それは青龍だった。
白い雪に赤い髪がなびき、倒れていた。

「青龍しっかりして?!一体どうしてこんな所に…」

ヒロインは青龍を抱き起こし、揺さぶると彼の瞳は直ぐに開いた。

「青龍?!」
「…甘いな」
「え、うっ…!」

後頭部にズッシリとした重い痛みを感じ、ヒロインはそのまま前に倒れこむ。
それをしっかり受け止め、青龍はヒロインを抱き上げた。

「こんな簡単な罠に引っかかるとは、甘いなヒロインよ。まあ、これでお前は俺のものだ」
「ヒロインを離してもらおう」

1人笑う青龍の所へ、別の声が上がる。
赤龍が、青龍より少し離れた所に立っていた。

「赤龍、久しぶりだな。ヒロインと旅をして、随分楽しそうじゃないか」
「…貴方には関係ないですよ。それより、彼女を解放して下さい」
「それは出来ぬな」
「…貴方にヒロインは関係無い筈だ、兄上」

怒りを込めて、弟は兄に厳しい瞳を向ける。
兄は、ニヤリと笑みを浮かべる。

「くく、弟よ。お前、やはりヒロインに惚れているな」
「だったらどうするつもりです?」
「俺もヒロインに惚れていてな。悪いが、2度、こいつの身体に触れた。お前が吸血鬼にさらわれた時、そして雪の町でな」
「…やはりな、貴方の気配がしましたから」
「くく、赤龍。ヒロインを返して欲しければ氷の宝珠と引き換えだ。氷の宝珠を俺の城まで持って来れば、ヒロインは返してやろう。くく、待っているぞ弟よ。くくくく…!」

兄青龍はそう笑うと、スッと一瞬で消えていた。
ヒロインの姿も、一瞬で消えていた。

「ち…っ。まさかヒロインに手を出すとはな…」

残された赤龍は、雪が降りしきる中、ローブから水色の宝珠を取り出す。

「…ヒロイン、待っていろ。お前が俺を助けた様に、今度は俺がお前を助ける」

赤龍は宝珠を握り締め、今迄にない力強い言葉でそう言ったー。


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