04





 キリがいない。

 そう気付いた瞬間、血の気が引くのを全身で感じた。迅は会議室の廊下を見渡す。しかし、キリの姿はどこにも見当たらない。

 「キリ!」

 ボーダー本部内だから危険がないのは百も承知。だが、目の前にキリがいないことは、どうしてもあの日がよぎってしまって、とても迅を不安にさせた。

 廊下を足早に歩いてラウンジに行くと、嵐山と視線がかち合う。

 「迅!」

 「すまん、嵐山今は忙しいから・・」

 そこまで言いかけて、嵐山隊のメンバーと烏丸とはしゃぐキリの姿を見つける。

 「ほらキリちゃん、迅さんだよ」

 ほらほら、と時枝に言われて気付いたキリはこちらを見るなりぱぁっと顔を輝かせる。一気に脱力しかけながらも、迅はそこに近付く。

 「この子、嵐山さんを迅さんと間違えたみたいで」

 そう言う佐鳥にすっかり餌付けされたキリはにこにこ佐鳥の膝の上に座って迅を見ている。

 「・・お前なぁ・・」

 仮にも幼馴染だったろ、と言いかけてやめる。彼女には記憶がないんだった。烏丸はそんな迅に飄々とあいさつする。

 「迅さんおつかれです。なんか来たらすっかり懐いてたし、迅さんを待つって聞かなかったんで」

 「・・あー・・まぁ、それならいいんだそれなら・・」

 「迅さんがそんなに慌てるなんて珍しいですね」

 思わず烏丸の隣に座り込む迅に時枝が呟いた。嵐山はそんな迅にからりと笑う。

 「いや、でもよかった。なんだかこの子は普通じゃないらしいからな」

 事情は烏丸から聞いたらしく、まっすぐな嵐山らしい言葉に迅は少し笑った。キリが出会ったのがこの隊でよかったかもしれない。

 「・・ほら、本人も来たことですし、佐鳥先輩はキリちゃんを下ろしてください」

 木虎の言葉にええ〜としぶしぶ佐鳥はキリを下ろした。

 「けん、あい、ありがとう」

 「いいえ、困ってる女の子はほっておけないからなぁ〜」

 「・・佐鳥先輩、それ以上キリちゃんに近付かないでください、悪影響です」

 「ひどくない?」

 キリはそのまま迅の隣に来てにこにこ笑う。やっぱり、たとえ彼女が無事だと知っていても視界に入っているか否かでは全然安心が違う。

 「じゃあ、キリちゃん、今度は迅と離れないようにな」

 「あとあんまりふらふらしちゃだめだよ」

 「うん」

 嵐山と時枝にそう言われ、キリは何度か頷く。そんな彼女の手を握ってやれば、キリもまた握り返した。

 最初こそ、キリには迅だけだった。しかしそれに玉狛のメンバーに嵐山隊。彼女が記憶と共に失った平穏が戻るような気がして嬉しく思う反面、彼女がどこか行ってしまいそうな気がして、たまらず迅はキリの手を握るのだった。


  
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