02




 前言撤回、本部は変な奴らばかりである。

 「わー! 迅さん、迅さん! その隣の子なんすか!?」

 「何、何、お前このかわいい子」

 「・・太刀川、怖がっているぞ」

 本部に来てそうそう、日頃の顔の広さが災いして迅の隣にいる謎の少女としてキリは注目を浴びてしまい、色んな人物がキリに興味を持つ。
 いっきに注目され、興味津々に覗かれたキリはすぐ迅の手を握って泣き出してしまったのだ。

 「あーあー、何泣かせてんの太刀川さんのせいだ」

 ぐずぐずしながら迅に抱き着くキリを撫でつつ、迅は言う。本部の変な奴その一、太刀川はむすっとした。

 「俺じゃないだろ、風間さんの目つきが悪いから」

 本部の変な奴その二、風間はそう言った太刀川を冷ややかに見た。

 「違うな、貴様のその髭面のせいだ」

 「ねぇねぇ、迅さん、迅さん! だからその子何?」

 相変らず迅の周りをまわる本部の変な奴その三、緑川に迅は説明した。

 「おれの幼馴染。あんまり見ないでやって、人が怖いんだ」

 「へえぇー?」

 そう言って無邪気に首を傾げる緑川の隣にいる風間はキリをちらりと見た。

 「だが、その子は一般人だろう。本部に連れ込んできていいのか」

 「まあ、それが、一般人ってわけでもないんだなぁ」

 「?」

 まだ聞きたそうな三人になんだかんだ理由をつけてその場を立ち去った。





 「やだ、ゆういち帰りたい」

 会議室手前で、それまで色んな視線を浴び続けたキリがとうとう参ったらしく涙目で迅に訴えた。不覚にも、そんなキリにドキッとしてしまうのだから心臓に悪い。

 「ごめんな、キリ。あともう少しだから」

 ぎゅっと手を握ってくるキリにそうだ、と迅は少しキリを引き寄せると額にキスをおとす。

 「? なあに?」

 「んー、キリが元気になるようにおまじない」

 上目遣いで首を傾げるキリに、これ以上ブレーキが利かなくなる前に迅は彼女の手を引き歩き出した。





 「! ぼす!」

 「おーキリ、よく来たなー」

 会議室に入れば、そう言って林藤が出迎えた。キリは嬉しそうに林藤に駆け寄った後に、それ以外は知らない人物だらけなことに気付いて、慌てて迅の元へ戻って来た。

 「その子が近界から戻って来た少女か」

 「・・!」

 城戸にまっすぐ見つめられたキリは、びくっと体を震わせる。

 「城戸さん、そんな怖い顔しないでくださいよー。キリが怖がってるじゃないですか」

 「報告によれば、記憶喪失だそうだが」

 「・・はい、それに今のキリからはこの通り、何も聞き出せないと思いますよ」

 ぎゅっと迅から離れようとしないキリに、会議室はどことなく暗い雰囲気になる。それはそうだ。もしもキリが近界からこちらに戻る秘密を知っていれば、今後のボーダーに間違いなく貢献しただろう。

 「それはそういうフリではないんだろうな?」

 鬼怒田の一言に、迅はにっこり笑って見せる。しかし、目元は冷ややかに会議室を見据えた。

 「それはありませんね、おれが保障します」

 「・・まぁ、迅が言うのならばそうなんでしょう。彼女は・・」

 そう言って忍田は林藤を見る。林藤は任せろ、と頷く。

 「・・しかし、トリガーの使用は禁止する。まだその子が完全に我々側だと分かった訳ではないからな」

 いいな、と城戸に言われて迅はうなずく。

 「・・はい、それでキリの安全が保障されるのならば」


  
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