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「・・なるほど。でもにわかに信じ難い話っすね」
一通り迅から事情を聞いて、ソファで小南と陽太郎の間に座ってたい焼きを食べるキリを見る。
近界民に連れ去られ、そこで過ごした数年は想像もつかないが、その結果があの状態なのだからそうとう辛い目にあったのだろう。そう思えば、先ほどまでと違って見えた。
「あいつ、あっちに連れていかれる前は人見知りなんかしなかったし、いつも笑ってばっかだったんだ」
そう言って迅は真っ直ぐキリを見つめる。
「正直、あいつが戻って来たこともあんな風にされたのもびっくりした、けれど。あいつには幸せになってほしいんだ、ここで」
「・・なるほど」
いつものふざけた雰囲気はどこへやら、キリを見つめる目は愛おしいものを見る目そのもので。彼女が連れ去られた数年は迅にとっても苦痛だったことが伺えた。
「まぁ、俺は構いませんけど」
これで玉狛の雰囲気がギスギスしたものになるのならばともかく、彼女によってさらに賑やかになるぶんには構わなかった。
「京介、メシはこっちで食っていくのか?」
フライパン片手に木崎がそう聞いてくる。
「いいや、バイトあるんで大丈夫です。ちょっと私物取りに来ただけだったんで」
いい時間になってきたので、烏丸は鞄を持って立ち上がる。ふと、こちらをじっと見ているキリに気付き、烏丸は軽く手を振ってやる。そうすれば、キリはぱっと目を輝かせて振り返した。
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