02




 「・・なるほど。でもにわかに信じ難い話っすね」

 一通り迅から事情を聞いて、ソファで小南と陽太郎の間に座ってたい焼きを食べるキリを見る。
 近界民に連れ去られ、そこで過ごした数年は想像もつかないが、その結果があの状態なのだからそうとう辛い目にあったのだろう。そう思えば、先ほどまでと違って見えた。

 「あいつ、あっちに連れていかれる前は人見知りなんかしなかったし、いつも笑ってばっかだったんだ」

 そう言って迅は真っ直ぐキリを見つめる。

 「正直、あいつが戻って来たこともあんな風にされたのもびっくりした、けれど。あいつには幸せになってほしいんだ、ここで」

 「・・なるほど」

 いつものふざけた雰囲気はどこへやら、キリを見つめる目は愛おしいものを見る目そのもので。彼女が連れ去られた数年は迅にとっても苦痛だったことが伺えた。

 「まぁ、俺は構いませんけど」

 これで玉狛の雰囲気がギスギスしたものになるのならばともかく、彼女によってさらに賑やかになるぶんには構わなかった。

 「京介、メシはこっちで食っていくのか?」

 フライパン片手に木崎がそう聞いてくる。

 「いいや、バイトあるんで大丈夫です。ちょっと私物取りに来ただけだったんで」

 いい時間になってきたので、烏丸は鞄を持って立ち上がる。ふと、こちらをじっと見ているキリに気付き、烏丸は軽く手を振ってやる。そうすれば、キリはぱっと目を輝かせて振り返した。


  
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