02
「あ、キリちゃん。おはよー」
「お、おはよう・・ございます」
散々悩んだ後にガラリと教室のドアを開ければ、悩みの種そのものーー勅使河原がキリに笑いかけて挨拶をしてきた。
笑顔を貼り付けて逃げるようにそのまま席に着く。今日に限ってあのうるさい馬鹿コンビはまだ来ていなかった。いつもならこの時間にはとうに来てるのに、だ。
ニコニコしながらヤツはこちらに近づいてきたので、キリは慌ててカバンをおいてコートを椅子の背にかけると教室を飛び出した。
あれは絶対に見間違いではない。そう確信したのは、隙あらばキリに話しかけてきたりするのもあったが、一番はあの貼り付けたような笑顔だった。
経験上、あぁやって適当に笑っているやつが近づいてきていい思いをしたことはない。ささいな表情の変化を見逃さないこのサイドエフェクトはこういう時に限っては便利だった。
特に行くあてもなくてうろちょろしていればふと響くほんわかとした声。
「あれぇ、キリじゃん〜」
「瑠依!」
「どーした、真っ青だよ?」
「なんでもない」
ようやく出会った見知った顔にキリは胸をなでおろした。
全ての人に好かれることができないのは分かっているつもりだ。ただ、自分は周りよりもいくばくも人の目を気にしてしまうから、どうしてもあの瞳が気になるのだーーここ最近、人にめぐまれていただけに。
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