01
「・・学校いきたくない」
日曜日、休日が終わりに向かいつつある夜、夕食を食べ終えて食器を洗い終わったキリはそう言って床に突っ伏した。
ソファに座り、洗濯物を畳んでいた唐沢はそんなキリを見下ろす。
「どうしたいきなり」
少し変わったボーダーの面々とは仲が良く気を許しているので、小学校に入りたての小学生のように学校は楽しそうに通っている。
成績にしろ元々悪くはないし、帰ったら楽しそうに学校での出来事を(本人曰く、べ、別にそんなことはない!とのこと)話すので、まさかそんな言葉が彼女の口から飛び出すとは思わなかった。
「・・でも瑠衣とかくまちゃんに会いたいから行きたい」
「どっち」
最後に残ったタオルを畳み、唐沢は呆れたようにキリを見る。女心は秋の空なんていうが、彼女は中でもコロコロ変わる忙しい空なので今更驚くことは何もない。が、やはり、何か引っかかる。
とにかく分かることといえば、こうしてうだうだ呟くのは甘やかしてほしい証拠なので優しく名前を呼んでやる。
「ほらキリ、おいで」
「・・・・ペットみたいにいうな」
「はいはい」
そう言いながらも手を引いてやれば大人しく膝に座った。猫みたいだな、なんて言ったら間違いなく腹に一発叩き込まれるだろうからあえて何も言わないでおく。その代わりに綺麗な黒髪を梳いて片側に流す。
「・・変なひとがいる」
「変なひと?」
「・・・・転校生なんだけど、たぶん、私のこと知ってる」
「キリは知ってるのか?」
「・・・・知らない、けど、嫌な感じがする」
そのままキリは体を唐沢に預ける。
彼女はずっと言葉を使って人を遠ざけてきた。周りの人より誰かと関わるスキルが少し足りないのだ。
「万人に好かれることはできないぞ、一人くらい自分を嫌いな人だっているさ。気にしたらきりがない」
「・・・・・・うん」
彼女の前髪を少し押し上げて唇を押し当てる。胸の中のキリは納得したような、してないような綯交ぜになった表情で少しだけ頷いた。
唐沢がこの時の対応に後悔するのはまだ先の、話。
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