恋は思案の外 | ナノ

03


  出水は窓枠に寄りかかりながら溜息を吐く。ふと見上げた空はからりと晴れて、気持ちが良い。

 「今日は一時限目から古典だぜ、ぜってー寝る。つくづく思うんだけど、なんであの先生の授業は眠くなんだよ」

 そうごちる出水に、米屋は笑って空になったパックをゴミ箱に向かって投げた。

 「なんかすっげーこと起こったら起きてられそうだけどなー」

 「そうそう起こらないからすごい事なんだろ」

 「そりゃそうだ」

 そこまで言って、ふと二人は固まる。授業の準備をしていたキリが、いきなり黙った二人を見つめる。

 「なに、なんで急に黙るのよ」

 「えー、いや、なんだ、この会話米屋と前にもしたなーって」

 「それなー、なんだっけ、走馬灯的な」

 「デジャブでしょ? 走馬灯ってばか米屋、あんた死ぬの?」

 それそれーと笑う米屋にキリは溜息をつく。出水はぼんやり空から米屋、キリと視線を彷徨わせてあっと言う。

 「わかった、この会話キリが転校してきた時にしててーーやっべ」

 「座れー! 授業始めるぞー!」

 がらりと先生が入って来たので慌てて米屋と出水は席に着く。前の席の米屋は後ろのキリとその隣の出水と話すために少し椅子を後ろに引いて座る。

 「そうそう、なんかすげーことが怒ったら古典の授業起きてられんのにって話をしてたんだわ」

 「何ソレ。でも米屋結局寝たじゃない、あの時」

 「それなー!」

 出水が頬杖をつくとにやっと笑う。

 「またすげーこと起きたりして」

 まさか、そうキリは笑い飛ばそうとしてあるものを見、固まる。米屋と出水もつられてキリが見ている教室の入り口を見た。

 真っ先に目に入ったのは、茶色いクセっ毛だった。先生の後に続いて現れたその人物は、先生に促されるままに教壇の前まで歩いてくると、何やら黒板に書き始める。

 勅使河原翔、と書かれた字を見つめ米屋は「うっわ、よめねぇ」と呟く。聞こえたのか聞こえてないのか、勅使河原はくるりとこちらを向くとにこやかに笑った。

 「初めまして! 今日、このクラスに転校してきました。これで“てしがわらかける”と言います、よろしくお願いします」

 ぐるり、と勅使河原は何かを探すように教室を見渡しーーキリと目が合うなりにっこり笑った。あの、はりつけたような笑顔だった。
 どんどん引きつるキリとは裏腹に、にこにこ笑った勅使河原は真っ直ぐキリのところへ歩いてくると、キリの手を取った。

 「・・・・よかった。また会えたね、ボーダーのお姉さん」



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