01
「進路、ねぇ」
配られたプリントを米屋から受け取りつつ内容を確認したキリは思わずそう言って溜息を吐く。
大規模侵攻から一週間が経ち、三門市は徐々にいつもの雰囲気へと戻っていた。学校も早々に始まり、そろそろ高校卒業後の進路を考えなければならばない学年であるという事を思い知らされて、キリは一気に現実に引き戻される。
「いーじゃん、キリは頭いいからどっかいけんだろ」
けらけらわらって前の席の米屋が椅子に後ろ向きで座ってこちらを見る。
そう、新学期そうそう大半のクラスメイトの要望でくじ引きの席替えをしたのだが、隣が出水なのが変わらない上に目の前の席に米屋が来たのだった。
「ばーか、その先、よ」
「その先? そりゃ結婚ーー」
「いい加減にしなさいよこのデコ」
「ひでぇ」
その様子を見ていた出水はぐっと伸びをすると緊張感のないあくびをする。
「まー、おれたちは最悪ボーダーと連携してる大学って選択肢あるからなぁ。あんま悩まねぇんだわ」
「それほんと?」
「じゃなきゃ太刀川さんが大学生になれるはずがない」
「・・なるほど」
そこまで話し終えると、一瞬だけちらりと教壇で何やら話している担任を一瞬だけ見、出水は頬杖ついてこちらをみる。
「・・っつーか、キリもそうじゃねーの?」
「私? ・・うーん」
ぶっちゃけ、なんとなくの流れでそのまま流されて今に至っている気はしていた。
もちろん、唐沢の隣にいることを選んだのは紛れもなくキリ本人だ。そしてあわよくばこのままこの生活が続けば、なんて思う自分もいる。
ただ、時間は容赦なく流れていく。キリだって大学へ進学して仕事についてと一歩ずつ進まなくてはならない。そうした時、唐沢の隣にいることと自分のことと、二つを一気に追いかけて、はたしてどちらも上手くいくのかーーそんなことを考えてしまうのだ。
きっと唐沢は隣にいたい、と言ったらやめておけ、お前には別の道だってあると苦笑いするのだろう。
そう考えるたびに、彼との関係の終わりが見えた気がして泣きたくなるのだ。
キリは、もんもんとそんなことを考えつつ、窓越しに空を見て、
「・・・・まだ、わかんないや」
と呟くのだった。出水は、そんなキリにあっそ。とだけ呟いた。
「ただいまってあれ、克己早くない?」
今日は午前中に学校が終わり、いまだ複雑な気持ちを抱えつつ帰ればそこには唐沢がいた。
「おかえり。帰宅早々悪いが、行くぞ。一応スーツ着ていけ」
綺麗にクリーニングされた皺ひとつないスーツを受け取りつつ、キリは首を傾げた。
「? どこに? 今日は記者会見あるから会議はないんでしょ?」
「その記者会見だよ。理由は車で話す、先に行ってますよ」
そう言って半ば急ぎ気味に出ていった唐沢を追いかけるように、キリも慌てて着替えると追いかけた。
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