03
「ほら準備ができたわよ、早く行くんじゃないの?」
着慣れないボーダーのスーツに身を包んで出てきたキリは、ぶっすうと頬を膨らませてご機嫌ナナメだった。唐沢は苦笑いする。
「そうだな、さっさといこうか」
幸いにも、基地から遠いこともあってこちらは何事もないようにいつもの日常が流れている。
ただ、耳にしている通信機から絶えず流れてくる緊迫した空気に何もできない自分が少し歯がゆかった。
地下の駐車場まで下りると、車の助手席に乗り込む。その時、急に大きな声が耳に響いた。
「秘書さん!! 大丈夫でしたか!!」
「ひさと、それ音量マックスだよ」
「えっ!? 嘘ごめんなさい!」
「いーだろ別に、クソ秘書だし」
「諏訪さん、そう言ってキリちゃんベイルアウトした瞬間怒ってたじゃないですか」
「うわー、すわさんにツンデレとかいらない萌えない気持ち悪」
「うるせーな!」
もはや本人そっちのけでぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた向こう側に、キリはどう返せばいいのか分からなくてただただ聞くだけ。
「とにもかくも秘書さん、ありがとうございました!」
「君がが気体化できると見破ってくれて助かった」
別の通信からは忍田が。
「まだトリガーの使い方がなってないが、短期間でここまでできたことを考慮すれば上出来だな、以上」
「風間さん褒めすぎ、どうせたまたまでしょ」
「おい菊地原、お前はいい加減にしろ。西条さん、お疲れ様でした」
どんどん入ってくる通信に、キリはそっと通信機を外すとそっぽを向く。車を出しつつ、唐沢は彼女に声をかけた。
「・・出なくていいのか?」
「・・・・うるさすぎて出る気にもならない。バカじゃないの、あいつら」
そう言って髪の合間から見えた耳は真っ赤なのだが、唐沢はあえてなにも言わず片方の手でキリを撫でた。
「今までの訓練が身についていたようでなにより」
その言葉にも、隣の不器用な少女はバカじゃないのと小さくつぶやいた。
prev / next