02
ぼふん、と柔らかいクッションに着地して目を開ければ、いつものマンションの天井が見える。
ベイルアウト先は、一時期キリが使ってた基地のあの部屋とも考えたが唐沢の申し出でマンションの書斎、もといキリの部屋になったのだった。
思わず胸に手を当てる。あの、内側からブレードが体に刺さった感覚はやけにリアルだった。仮想の体のはずなのに、はっきり肉を切り裂かれたような気がしたのだ。
「初陣、お疲れさま」
かちゃ、とドアがあいて唐沢が入ってきてそう言うとクッションに腰を下ろす。
「・・死んだかと、おもった。仮想の体なのに、ベイルアウトする時にあぁ、死んじゃうのかなって」
少し前に死にかけたこともあってか、一気に生きている事への安心感が込み上げて来る。ぼやける視界に、唐沢の穏やかな笑みが映った。
「・・俺は兵隊の運用に関しては専門外でよくわからないが、命の重さを知っている兵士は貴重だと、思う。死を軽んじるものは自滅するからな」
お疲れ様、と頭を撫でる手はこの上なく優しいもので、キリは思わず泣き出した。
「落ち着いたか?」
しばらくぐずぐず泣いた後、彼女は急に羞恥心が芽生えたようで慌てて真っ赤になると唐沢の手を振り払う。
「うっさい、平気だばか」
「元気そうでなにより。それならキリ、あと五分で支度を済ませろ」
クッションから腰を上げるとそう言った唐沢に、キリが首を傾げた。
「今度は秘書としての仕事だよ」
そういって持っていた小箱をキリに渡してやる。不審そうにキリはその小箱を空けると、中に入っていたものをみるなり目を輝かせた。
「わー、スーツ!」
それは沢村がいつも着ているボーダーのスーツだった。
「サイズは学校の制服を基準にしてある。着れないことはないと思う」
嬉しそうにそれを取り出して広げるキリに、思わず笑う。ただ、ちょっと加虐心が湧いて、
「まぁ、身長はぴったりだと思いますよ。安心しろ、貧相な胸元はレースでごまかしてやった」
「〜〜っ!」
と言えば、間髪入れず蹴りが飛んできたので後ろにのけ反って避けた。こういう時、昔スポーツをしていたのは心強い。
「あー! もー! 出てけ出てけ変態! 余裕面!」
「・・やっぱり、キリにはその表情の方がよく似合う」
「う、うううるさい! 出てけ! ばか!」
真っ赤になって胸元を押さえるキリにぎゃんぎゃん喚かれて、また唐沢は笑うとキリの指示通りに部屋を出た。
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