01
「キリちゃん、聞こえるかい?」
諏訪と笹森を援護しつつ体勢を立て直していれば、不意にそんな堤の言葉が通信に入ってきた。
「はい、大丈夫です堤さん。ありがとうございます」
「それはよかった。今、仮想戦闘モードにしてあるから遠慮せずに弾をとばして。こっちで解析するから」
「わかりました」
人型の近界民が、この部屋に何か仕掛けがあると感づいたのか思い切り顔をしかめる。考える時間を与えないように、キリは大きなアステロイドを出現させて可能な限り小さくして飛ばす。
「かー、やっぱお前のそれバケモンだな」
「うっさいわね! あんたもちゃんとやりなさいよ!」
「ったく、お前、口だけはよく動くな」
そんな最中、確かな手ごたえを感じてキリは思わず手を止めかける。
「クソ秘書が当てやがった。堤!」
「了解、硬質化したトリオンをマークしました!」
「ナイスです、秘書さん!」
笹森のその言葉は、まっすぐ胸に入ってきた。
こうして、誰かと何かを一緒にやって声を掛け合う、出水や米屋たちと出会わなければ一生こんな体験はできなかっただろう。
「了解です! 基地や通信室の人の分もやってやる!」
「おうおう、ぶっとばせ!」
「・・なるほどなぁ」
人型近界民は、にやりと笑った。瞬間、あたったすべての弾に手ごたえを感じてキリは思わず舌打ちした。
「ダミーか、クソ」
「猿が知恵絞ってんのを見んのは楽しいなぁ」
瞬間、キリの目にうっすら霧状の何かが充満していくのが映る。
(・・コイツ、もしかして液体化だけじゃなくて・・)
「諏訪さん、日佐人くん! コイツから離れて!」
ぐっと二人の首根っこを掴んで後ろに飛ばす。そこなら、まだ謎の霧は充満していない。
「あぁ? トリオン女、おまえ目がいいのか猿のクセに」
パチリ、と霧が訓練室のパネルに触れる。
(仮想戦闘が終わる!)
キリはばっと後ろの二人に振り向くと思い切り叫んだ。
「この人型! 気体にも変化ーー」
瞬間、先ほど吹き飛んだ左足がなくなってぐらりと体が傾いたかと思えば、体の内側から何本もの黒いブレードが突き出す。
「秘書さん!」
ざくり、と心臓部を貫かれるような不快な感覚とともに、供給器官を壊されたことを意味するアナウンスが響く。そして、視界が光に包まれて浮遊感に包まれーーキリはベイルアウトした。
prev /
next