02
「おおぉ〜、朝から熱いですねぇ〜」
珍しく一緒に家を出ることになって、マンションを出ればそう声をかけられて振り向く。
「・・げ、変な人・・じゃなくて迅さん」
「うんうん、全部聞こえてるからね?」
ぼんち揚げ食う? と朝の胃にはかなりヘビーなものを差し出してくる彼にやんわり断れば、隣の唐沢が迅に聞いた。
「おや、迅くんはうちの秘書に何か用かな?」
「やだなぁ、いくらキリちゃんが可愛くても、唐沢さんのものである以上絶対手出しいたしませんってば。そんな威嚇しないで」
怖い怖い、と大げさに怖がる迅に唐沢はキリをぐっと自分に引き寄せると不敵に笑う。
「それが賢明だ」
それで、と唐沢は話を進める。
「迅くんは世間話するためにここで待っていたわけではないだろう」
「そうそう。キリちゃん。君には大規模侵攻が始まったら、基地へ向かってほしい」
「・・基地に?」
そう、と迅はうなずく。いつものあの冗談を言う表情が消えた彼の表情に、キリも自然と背筋が伸びるのを感じた。
「基地に厄介なことが起こった時、一番そのやっかいごとの貢献できるのはきみなんだ」
「・・でも、私まだそんなに・・」
太刀川がきっかけとなって色んな隊員と戦ってみて分かったのは、圧倒的に自分には経験が少ないということだった。
いつも髭呼ばわりしている太刀川だって、日頃からお互いにからかいあってる出水と米屋だって、キリよりも何倍も戦って得た経験がある。それをベースに、彼らの強さは成り立っているのだ。
基地には、そんな隊員がゴロゴロいる。むしろ経験浅いキリが入ったところで邪魔になるような気がした。
「そうあんまり自分を卑下しないの」
そんなキリに、迅はふわりと笑う。
「大丈夫。確かにその時、きみはその厄介に一人で対面しなくちゃいけないけれど、戦いはひとりじゃないよ」
きみができる限りの最善を尽くして、といった迅の瞳は真っ直ぐで。キリは応えるようにその瞳を見つめ返し
「・・はい」
と答えた。
「だー! やってらんねー!」
昼休み、米屋がそう言って伸びをした。
「いつも思うんだけれど、あんたなんでバカなのに予習もしないし復習もしないの? バカなの? あ、バカなのね」
「・・キリがつめてー」
キリは弁当を開きつつ、古典と悪戦苦闘する米屋にそう言う。
「お前さー、次赤点とったらヤバくねぇ?」
出水がそう言ってほとんど真っ白な米屋のノートを見る。米屋は頭の後ろで手を組むとぶーぶー文句を言い始めた。
「・・と思うじゃん? 古典だけじゃねぇんだわ、やってらんねー」
「なにそれ、だったらちゃんとやりなさいよ!」
「あてっ」
キリに叩かれて、米屋はさらに不機嫌になる。自業自得だが。
「まぁ、幸い周りは頭いいから教えてもらうけどなー」
「おれはパス。だりぃ」
出水はそう言ってエビフライをくわえる。その隣でキリもうなずいた。
「私もパス」
「くそー、薄情もの共めー」
そう言って米屋が紙パックのジュースに刺したストローをくわえた時だった。
大きなサイレンの音が鳴り響き、基地の方の空が黒く染まっていくーーいや、あれは無数の門だ。
「なにあれ・・!」
「・・おうおう、おいでなさったな」
瞬間、三人の通信機が鳴り響く。どく、どくと早まる鼓動を押さえつけて通信機をだす。三人はそれぞれ確認し、顔を見合わせた。
「・・緊急呼び出しだ」
prev / next