惚れた欲目
※エイプリルフールネタ。
「・・じつはさ、おれたちって付き合ってるんだよな」
朝一番、基地でなぜか腕を絡めて歩いてきた米屋と出水にそう言われ、キリは唐沢に届ける予定の資料の山を盛大に床にぶちまけた。
「え、え、え」
パクパクと口を動かして二人を見比べるキリに、二人は同時に吹き出した。
「あー、ダメだ、耐えらんねぇ何その顔!」
「だっせぇ顔」
そういってげらげら笑い転げる二人にキリはなんだなんだと戸惑う。
「あー・・笑った・・いや、さてここで問題」
「今日は何の日だ」
「きょ、今日?」
まだ、二人が付き合っていたという衝撃の事実に驚きつつキリは手帳をめくる。
「四月一日・・って、あー!」
「そうでーす」
「エイプリルフール」
そういってケロっとする二人にキリはへなへなと座り込む。
「び、びっくりしたぁ・・」
「いやー、ホントは午前中にウソを言って午後にネタバレするんだけど、お前のその反応卑怯すぎ」
そう言う出水はまだ肩が震えている。なんだか悔しくて、キリは二人の頭を叩いた。
「いてっ」
「いたっ」
「もー、バカなことしてないでさっさと防衛任務に行きなさい!」
しかし、エイプリルフールか。そんなもの、ここ数年気にしたことがなかった。
(ウソをついていい日・・ね)
いいことを聞いた、とキリは密かに笑って歩き出した。
営業部の部屋に帰るなり、キリはパソコンを眺める唐沢に真剣な顔を装って近づく。
「・・克己、これ、書類」
「あぁ、ありがとう。・・どうした」
少し暗い表情のキリに唐沢はふ、と笑う。これは彼が完全に油断しているサインだ。
(テディベアの時のお返ししてやる!)
今度は泣きそうな顔を装ってキリは呟いた。
「・・実はね、私、許婚がいたの」
もちろんの真っ赤なウソである。そんな話が出た時もあったが、キリ難しい性格ゆえに何度もその話は流れていった。
唐沢はポカン、としている。かかった、と内心ほくそ笑みつつキリは続ける。
「その人から、連絡来て・・ごめん、混乱しちゃって・・」
頭冷やしてくるね、と言って唐沢に背を向けドアに向かって歩き出す。
さぁ、存分に悩め。午後のネタばらしまで。そう思いつつドアに手をかけた瞬間にバン、と音がして視界の端に唐沢の腕が映る。
「・・そうか、悩むことはないな、その許婚と一緒になればいい。よかったな」
たらーっと冷や汗が背中を伝う。この声は、唐沢が怒った時のトーンで。唐沢は背後からキリをドアに追いやるようにジリジリと迫る。
「ま、待って、これは」
完全に怒らせる前にネタばらしを、と振り返ればいつもの余裕面をした唐沢と視線がかちあう。
「・・あれっ」
「・・やはりそうか。キリはウソをつく時は必ず俺から目をそらす」
そうか、今日はエイプリルフールか、とくすりと笑う唐沢に今度はキリがポカン、とする番だった。
「俺にウソをつくのだったら、もう少しマシな演技をするんだな」
そうくすくす笑って唐沢はキリを撫でた。撫でられたキリは敗北をひしひし感じてきっと唐沢を睨む。
「〜っ・・!今に見てなさい、いつかその足下すくってやるんだから!笑うなバカ!」
「それはそれは楽しみだな」
それでも、そう言って挑発的に笑う唐沢に不覚にもドキッとしてしまうのだから、最初から勝負は決まっているのだ。
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