忠言耳に逆らう
※時間軸は『恋は盲目』の後。出水が不憫な話。
「・・で? 結果は?」
そう言って目の前でニヤニヤ笑う悪友を睨む。
「フラれましたけど、何か?」
一文字ずつ区切って言えば、米屋は吹き出した。ーー後で必ずぶっ飛ばす。
「そりゃ、最初から弾バカに勝ち目なかったしなー!」
「うるせーうるせー、後悔だけはしたくなかったんだよ!」
あくまで隣で机に突っ伏して爆睡するキリに聞こえないように言い返す。しかし、目の前のバカは声量お構いなしに爆笑する。
「あーあ、でもお前キリに未練たらたらだもんなー」
「マジでいい加減にしろよ、後でーー」
「私がなあに?」
出水を指さし笑う米屋を睨んで言い返そうとすれば、いつの間にか起きていたキリが興味津々に出水の机に乗り出してきた。
「あー、出水がーー」
「なんでもねーよ! つーか、口元によだれのあとついてんぞ」
「えっ、ウソ!」
慌てふためくキリに、出水はにやっと笑った。
「ウソだ、バーカ」
「! こんの・・出水ー!」
掴みかかるキリに出水は抵抗する。その最中、キリの首元につけられた赤い痕に嫌でも気づいてしまう。
(・・あのおっさん、案外性格悪っ)
普段、一緒にいるにはギリギリ見えないが必要以上に近付けば見える距離。つまり、それは見えた者に対する、キリに近付くなという警告で。
「・・あのやろー・・」
ほとんど出水個人に向けられたもののような気がしてそう呟けば、キリは首を傾げる。
「何よ」
「うっせ、離せ」
「はぁ? なんで機嫌悪くなんの?」
「・・お前の上司にきけ、そんなの」
「? なんでそこに克己が出てくんの?」
どこまでも唐沢は、キリには見えないいくつもの網を張って逃がさないようにからめとっているのだから、いつもありありとその年齢による余裕の差が見えた気がして悔しくなる。
「知らねーよ」
忠告されたとて、聞く気はない。出水はキリに素っ気なくそう言って顔をそらすのだった。
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